最近の動画配信の内容を、コラムとして書き起こしたものです。図解などを参照する場合は、動画と合わせてご覧ください。「FPチャンネル 資産づくりから承継へ」の登録で過去配信が視聴できます。ご登録よろしくお願いいたします。
多くの方がやっている「とりあえず株のまま相続」――。
でもこれ、本当にいい対策ですか?
納税資金が足りない、税金を少しでも減らしたい、というお悩み。
前回の動画では、株相続と現金贈与について税額の比較と承継の仕方について配信しました。
じつは、これ以外にも現金での相続、株での贈与についても比較しないとスタート地点が違うので公平な比較にならない、という意見もありました。
そこで今回は、4パターン、同じ条件で比較、完全決着したいと思います。
■ 共通の前提
スタート地点をそろえるために、先に税額比較を4パターン出します。事例は前回と同じです。
資産は課税口座です。
「なんだ、課税口座なら関係ないや」
――いいえ、NISA枠を超えて値上がりした株を持つ方、珍しくないのです。もしこれがNISAなどの非課税口座であれば、売却時にかかるはずの「譲渡税」がゼロになります。
今回のシミュレーションは、あくまで税負担のある「課税口座」の話です。でも、これからの資産承継では、NISA口座の株は売らずに優先して相続させ、課税口座の株をどう換金するかという「出口戦略の組み合わせ」が、新しい常識になります。
■ 4つのパターン比較
先に税額の結果です。
①現金での相続 769万円
②株での相続 940万円
③現金での贈与 694万円
④株での贈与 897万円
こうして見ると、税額で最も有利なのは、③現金贈与、最も不利なのは②株相続、前回で取り上げた2つのパターンであることが改めてわかります。
しかし、この2つのパターンだけを取り上げては、確かに公平な比較はできませんね。というのも、①と④では、相続と贈与で有利不利が逆転するからです。
それでは、この比較表をもとに、次からパターン別にみていきましょう。
■ パターン①現金相続
最初に、①現金相続
これは被相続人となる父親が、生前に株を換金し譲渡税を払い、相続後に子が相続税を払います。
マトリクスをご覧ください。縦軸が支払い税額(父と子の総額)の重さです。
横軸は承継の柔軟性、つまり将来の選択肢や資産のコントロール性です。
●メリット
●デメリット
➡バランス型で無難ですが、必ずしも最適とは言えません。
■ パターン②株相続後売却
子は株のまま相続し相続税を払い、その後株を売却し譲渡税を払います。
●メリット
・・・当たり前ですね。でも、売らないと現金納付できません。
この取得費加算というのは、相続した時に払った相続税で売却時の税金を安くする特例です。
●デメリット
· 売却時の税負担が重くなる。
・・・これは父親が買った時の株価がそのまま子に引き継がれ、高い時に売ることになるからです。
➡相続税と譲渡税のダブルパンチ! 税負担は最も重くなります。「とりあえずそのまま相続しておこう」、これが一番コスト高になるパターンです。
■ パターン③現金贈与(相続時精算)
ここまで2つとも相続パターンでした。ここからは贈与パターンです。
父親が生前に株を換金、譲渡税を払います。その後、存命中に子に現金贈与します。子はそこで贈与税を払いますが、これは相続税の前払いに当たります。
その後相続があった時に税額を精算するものです。このケースでは、相続税より前払いが多くなり、還付が生じます。
●メリット
●デメリット
➡今回のケースでは一番税金が少なくなります。
ただし——ここは大事です。相続までこの制度に縛られることになります。他の贈与制度との併用ができなくなります。
■ パターン④株贈与
父親が株のまま贈与します。子が贈与時に贈与税を払い、相続時に税額精算するのはパターン③と同じです。しかし、決定的な違い――
それは株を売却した時に多額の譲渡税がかかることです。
●メリット
●デメリット
➡このパターンでは、成長資産の移転には有効ですが、税負担は重めになります。贈与された株を売る場合、取得費加算が使えないので、高めの譲渡税がかかってしまう、結果として資産の目減りが激しくなります。
■ 再整理
最初に見た税額比較表をもう一度見てみましょう。
“税金の軽さ”と“資産の性質”は別物ということです。
子の税負担だけで見ると、
③現金贈与
①現金相続
④株贈与
②株相続
の順で税額が高くなります。
これは父と子の全体負担で見ても同じ結果になります。
ここ、ちょっと意外じゃないですか? 実は“株のまま相続する”って、一見よさそうに見えて、一番税金が重くなるケースなんですね。
■ 資産引継ぎのポイント
ここで親から子への資産移行のポイントを整理しておきます。
・生前換金・・・父親が生前に換金して、父親が譲渡税を払うことで、子の税負担を軽くする。
・相続時精算・・・2500万円まで短期に子へ贈与できる。子は贈与時に贈与税負担があるが、相続人は払いすぎた税金が還付されることがある。
・取得費引き継ぎ・・・相続した財産を売却するときに、親が取得した取得費を引き継ぐことになる。
・取得費加算・・・親から引き継いだ財産を相続後一定期間に売却すれば、払った税額を取得費に加算できる。
➡今回の4パターンは、値上がりを前提としていますが、暴落時に贈与するというのも1つの戦略ではあります。
■ 最善の承継方法は
先ほどのマトリクスを見て言えること――どれが得か、ではありません。
“どう組み合わせるか”。
・一部換金・一部株相続・・・父親が生前に一部換金し、税負担する
・一部贈与・・・相続時精算課税の非課税枠2500万円まで使う
・一部相続・・・取得費加算で譲渡税を圧縮することが可能
ただ、ハイブリッドにしても「現金贈与+現金相続」など『現金系が有利で、株系が重い』という順位は変わりません。
しかし、税金の軽さだけで選ぶと、資産の運用益を捨てたり、将来の資金繰りが苦しくなったりします。
だからこそ、『税金の軽さ』と『資産の使い勝手』のバランスを取るために、現金と株を組み合わせて設計する。これこそが、資産を減らさないための承継設計となります。
■ まとめ
こうしてみると、親から子への資産の承継は、単なる税金の比較ではなく、“時間”と“資産の性質”をどう使うか。これが承継設計の本質です。
今回の内容で百万円単位の差額は、一般家庭では決して少額ではないはずです。でも、資産がもっと大きくなると税金の影響は“数百万円〜1千万円単位”になります。
さらに状況によって、結果が大きくも変わる場合があります。個別案件は専門家にご相談ください。
2026.05