相続税ゼロなのに税金かかる――債券の相続、売るべきか残すべきかの盲点

最近の動画配信の内容を、コラムとして書き起こしたものです。図解などを参照する場合は、動画と合わせてご覧ください。「FPチャンネル 資産づくりから承継へ」の登録で過去配信が視聴できます。ご登録よろしくお願いいたします。 

■相続では意味が変わる

前回の動画は、「金利が上がって、債券が値下がりした」

――その評価の考え方と債券運用のハマりやすい「穴」について説明しました。後でご覧ください。これが、その時に表示した金利の推移です。

金利上昇によってどれだけ債券価格が下がるか、この後で見てみます。
債券下落、「がっかり」そう思っている方もいるかもしれません。

でも、その値下がり、相続では意味が変わることがあります。

債券だけでなく株などを相続するとき、

  • 相続税評価はどうなるか
  • 相続後に売ると税金はどうなるか
  • そして、株と債券、どちらが相続向き

今回はここを、少し踏み込んで見ていきます。

 

相続と譲渡はセット

「相続した債券はずっと持っていればいい」 冒頭にありましたね。

――そうです。相続財産であっても焦って売らずに長期運用すればいいでしょう。ただ、これが言えるのは配偶者の場合です。

配偶者は基本的に1億6000万円または法定相続分までなら相続税が非課税です。

では、他の相続人は? 基礎控除額を超えれば当然相続税がかかります。

相続税は原則金銭納付、納期限は10か月以内。遺産分割協議やらもろもろの手続きをしていたら、あっという間に過ぎてしまいます。

もし子が相続するとして、

納税資金が不足なら・・・。十分ありますね。

  • 預金を使う
  • 金融資産売却
  • 延納・物納(かなり限定)

ということになります。

つまり、評価された時点で終わりではなく、売却が現実に起こる。例えば、

相続税500万円→現金100万円しかない債券ファンドや株を400万円分売却

・すると、相続税だけでなく譲渡所得税まで絡む可能性がある。

――納税は待ってくれません。
相続と譲渡は別ではなく、連続した出来事なんですね。相続はゴールではありません。むしろ途中です。

本当のゴールは、納税と、その後の資産の整理まで含めた出口です。

 

債券でも違う相続税評価額

それでは、株と債券、どちらが相続向きなのか

「いやいや、投資するときに相続のことまで考えられない。自分の老後資金に使うことで頭いっぱいだから」

――納得です。でも、老後って自分1人だけのことでしょうか。仮に子がいなくても、夫婦どちらかが亡くなれば、残された人の老後はより長く切実です。残された妻(あるいは夫)が健康のままある日突然亡くなることはめったにないでしょう。病気や介護、不自由な長い老後生活が続くこともあります。

そう考えるとやはり、少しでも多くお金を残せればと思いますね。

そこで、3つのケースを見てみましょう。相続税評価はどう違うでしょうか。株も入れて比較してみます。株は値上がりしていれば、その高い時価で相続税評価がされます。

個人向け国債も変動型の場合は、金利上昇で利率は見直されますが、評価そのものが大きく変動する仕組みではありません。

一方、債券ファンドは金利上昇で、評価額も大きく下がる場合があります。

ここの構造は前回やりました。

 

債券でも大幅下落ありうる

「いや、債券ならそうそう下がらないでしょ。まして株みたいに10%、20%も」

――いえ、これは起こります。

実際に冒頭の金利の推移グラフで見たように、2年ちょっと前、2024年初めの10年債券の金利が0.6%から20264月の2.4%へ1.8%も動いた計算になります。

これだけの幅があれば、1000万円が900万円(10%減)になるのは、むしろ控えと言えるほど現実的です。

日本債券インデックスファンドの多くは、平均残存期間(デュレーション)が概ね10年弱です。計算上、金利が1%上昇すると価格は約10%下落します。図は、直近5年間の基準価格のチャートです。

直近4年間で17.5%も下落しています。

1000万円が850万円。つまり、債券は「安全=価格が動かない」ではなく、「満期まで持てば利息の付いた元本が戻る」というだけの設計なのです。

ここは、債券も株のように10%くらいの上下は普通にあり得る、とだけ覚えておいてください。

だからこそ、金利上昇は運用だけでなく、相続税にも影響する、ということなのです。

 

相続後売却は取得費を引き継ぐ

ここは、重要なところです。

配偶者は基本的に1億6000万円もしくは法定相続分まで相続税は非課税です。でも、納税目的でないにしても、生活費用に現金化する必要に迫られることもあるでしょう。

「相続税はゼロ、でも所得税がかかる」――ここ、盲点かもしれません。

債券は金利が上がることもあれば下がることもある。それがどう影響するか? 事例で見てみましょう。

パターンA(相続時値上がり)

・①債券ファンドを950万円で取得
・②妻が1050万円で相続→値上がりしても相続税なし(配偶者控除)
・③050万円で売却→所得税も課税なし(③売却時1050-②相続時10500) これで安心?

・実は→譲渡益は④100万円→(③売却時1050-①取得時950で所得税課税

この逆のパターンもあります。

パターンB(相続時値下がり)

・取得額は同じで②妻が850万円で相続→これも非課税(配偶者控除)
・③950万円で売却譲渡益100万円?→(③売却時950-②相続時850

・実は→譲渡益は④0円(③売却時950-①取得時950で所得税なし

この場合は、相続後の売却時に評価額が上がっても、譲渡益は発生しないパターンです。

ポイントは、相続税は「その時(相続時)の評価額」で決まる。でも、売却する時の税金(所得税)は「買った時(取得時)の価格」で決まる。この2つは、別のルールなのです。

ここはひじょうに混同しやすいですね。結局、債券を売るか売らないか、所得税がかかるかかからないかは、夫の取得価額にかかっています。

他にもポイントがあります。債券ファンドがNISA口座にあったなら」、あるいは、「相続後売却で取得費加算の特例が適用されるか」という論点もあります。ここは複雑になるので別テーマとして、配信したいと思います。

資産承継まで考える

「そもそも価格変動を持ち込まない」という考え方もあります。

値下がりした債券ファンドを相続し、その後の譲渡で活かす考え方もあれば、個人向け国債で守る設計もあります。

   固定3年・5年で金利をロックする

  • 金利上昇局面でクーポン確保で購入(元本安定)
  • 相続税評価もシンプル(金利分が利益)

「相続で残す守りの資産」としてわかりやすい考え方です。

   変動10年を持ち、金利低下局面で中途換金も視野

金利下落局面で適用利率が低下する前の高クーポン価値が相対的に上がる
→売却(換金)も検討・見直し余地あり、という考え方です。

ここまでを整理して「株は相続向きか、債券は相続向きか」、資産承継法を考えてみます。

株は増やすに強い。

個人向け国債は守る・残すに強い。

 

夫婦の老後期間は2人分

それから、妻相続か、子相続か、で資産の残し方が変わります。

妻に残す場合は、配偶者控除で相続税が出ないケースも多い。一方で、売却すると取得費を引き継ぐため、所得税が出ることもある。

子に残す場合は、相続税の負担が発生しやすい分、評価の違いがそのまま税額に影響することがあります。

こうしてみると、「誰に残すか」「何で残すか」でも考え方は大きく変わってきます。金融資産の取得者、例えば夫が生前に老後費用としてすべて使い切れれば、このような問題は起こりません。

でも、先ほども言ったように、夫婦の場合、老後というのは残された配偶者を含めての老後期間です。そこまで考えておきたいですね。

このほか二次相続まで考えたらどうなのか、相続ではなく暦年贈与で残したらどうなのか、という見方もあるでしょう。これもまた別テーマで配信したいと思います。

 

まとめ

今日のまとめです。

・相続と譲渡はセットで考える

・債券は残し方で意味が変わる

相続は、「持っていればいい」という話ではありません。

・「どう残すか」そして、「どう換金するか」

――ここまで考えて、初めて資産設計になります。

なお、今回の話は債券中心に考えましたが、金融資産全般に言えることです。

 (2026.05)

 

 

 

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