■ はじめに
老後資金など、まとまった資産をどう取り崩していくか。
「平均4%運用しながら取り崩せば大丈夫」 よく聞く話です。
――でもこれ、そのまま信じると危険です。なぜなら――同じ“平均4%”でも、
お金が尽きる人と、残る人がいる
からです。その違いは、たったひとつ。“順番”です。
この“見落とされがちなリスク”と対策をわかりやすくお話しします。
■ 基本の取崩し3方法
まず、今回の本題に入る前に、資産の取崩しには3つの方法がありました。それについては、こちらの動画で詳しく解説していますので、ご覧ください。
ここでは簡単に説明しておきます。定額取崩し、定率取崩し、期間均等取崩し、の3つです。
①定額取崩し
・・・毎月、あるいは毎年、一定額を取り崩す方法です。生活費としては使いやすいですが、相場が下がったときに資産が減りやすい。
②定率取崩し
・・・資産残高の一定割合、例えば4%や5%を取り崩す方法です。資産は長持ちしやすいですが、取崩し額が変動します。
③期間均等取崩し
・・・例えば「85歳まで」といった期間を決めて、均等に使っていく方法です。計画的ではありますが、長生きリスクには弱い。
さらに、資産別に①~③を組み合わせたハイブリッド法があります。
さて、ここで大きな問題がありました。相場が下落した時です。その場合は、取崩し設定を変更、または解除して自分で都度売却することです。ただし、手間がかかります。
■ 「平均」というカン違い
ただ、これらの方法だけでいいか、という問題もあります。3つの方法のメリット、デメリット、それはある「前提」のもとに成り立っているからです。
「平均4%で運用しながら、毎月5万円ずつ取り崩す」
――どこに前提があるでしょうか? 「平均4%」-ここですね。でも、その前提が崩れたら?
平均とは、どういうことか。リターンは高い時もあれば、低い時もある。金融では標準偏差、いわゆるリスクと言います。その山と谷をならしたもの、それが「平均」。
たとえば、「平均リターン4%、リスク8%」という場合。リスクは、リターンがそれだけ上下にブレるという意味です。これを一定期間ならしたリターンが4%である。これは「毎年4%ずつ増える」という意味ではありません。つまり、平均は「結果」なのです。
「そんなこと、わかっている」、と言われそうですね。
でも、これはとても重要なことです。初心者が投資心理に陥るところです。
もし皆さんが「平均4%の利益が得られる」と聞いたら、どんな心理になりますか? 人は、上の方(プラス)だけを見がちで、下の方(マイナス)は見たがらない。
――だから「平均4%」というと、「少なくても4%得られる、そのうえで4%から上に多少波がある」とイメージしがち、なんですね。理屈でわかっていることと、イメージしていることが違う。これが心理的バイアスとなります。
■ 「リターンの順序」というリスク
では、ここで考えてください。
平均4%のリターンなのに、「もし取崩しの最初の3年間がマイナスだったら、どうしますか?」
・予定通り取り崩すか
・怖くなって売るか
・我慢して待つか
ここで出てくるのが「リターンの順序リスク」(シークエンス・オブ・リターン・リスク)という考え方です。
同じ平均リターン4%でも
で結果がまったく変わります。問題は“その4%がいつ来るか”です。
ここに、Aさん、Bさんがいたとします。
同じリターンでどちらが資金が長持ちするか?
・Aさんは最初に相場が下がった
・Bさんは最初に相場が上がった
同じように取り崩していくと、Aさんは安いときに売ることになる。結果として
資産がどんどん減っていく。
一方、Bさんは余裕を持って取り崩せる。これが何を意味するか。
老後は「平均」ではなく、「最初の数年」で決まる――ここが、かなり重要です。
最初に上がるか、下がるかです。これは、単なる下落リスクとは全く違うリスクなのです。
念のため補足しておくと、もともと平均0~1%くらいの低い利回り運用ではほとんど影響ありません。
■ 事例シミュレーション
まだ、ぴんと来ないかもしれませんね。では、シミュレーションで見てみましょう。
次で見るシミュレーションでは、わかりやすくするため、長期で見れば同じような平均リターンになるケースを想定しています。違うのはリターンの「順番」だけです。
結果はどうか? かなり、驚きです。
■ ケース① 最初に下落パターン
細かい数字は後で見ていただくとして、ポイントだけ見てください。
ケース①:Aさん
|
年 |
利回り |
年初残高 |
取崩し |
年末残高 |
|
1年目 |
-15% |
2000万 |
80万 |
1620万 |
|
2年目 |
-10% |
1620万 |
80万 |
1378万 |
|
3年目 |
-5% |
1378万 |
80万 |
1229万 |
|
4年目 |
+8% |
1229万 |
80万 |
1247万 |
|
5年目 |
+10% |
1247万 |
80万 |
1292万 |
|
6年目 |
+6% |
1292万 |
80万 |
1289万 |
|
7年目 |
+5% |
1289万 |
80万 |
1274万 |
|
8年目 |
+4% |
1274万 |
80万 |
1245万 |
|
9年目 |
+4% |
1245万 |
80万 |
1215万 |
|
10年目 |
+4% |
1215万 |
80万 |
1183万 |
ポイントは、
最終の資産残高は:1,183万円です。
■ ケース② 最初に上昇パターン
ケース②:Bさん
|
年 |
利回り |
年初残高 |
取崩し |
年末残高 |
|
1年目 |
+10% |
2000万 |
80万 |
2120万 |
|
2年目 |
+8% |
2120万 |
80万 |
2209万 |
|
3年目 |
+6% |
2209万 |
80万 |
2262万 |
|
4年目 |
+5% |
2262万 |
80万 |
2295万 |
|
5年目 |
+4% |
2295万 |
80万 |
2307万 |
|
6年目 |
+4% |
2307万 |
80万 |
2319万 |
|
7年目 |
+4% |
2319万 |
80万 |
2332万 |
|
8年目 |
-5% |
2332万 |
80万 |
2135万 |
|
9年目 |
-10% |
2135万 |
80万 |
1841万 |
|
10年目 |
-15% |
1841万 |
80万 |
1485万 |
ポイントは、
最終の資産残高は:1,485万円
■ 資産残高推移グラフ
Aさんは、最初に下落
Bさんは、最初に上昇
結果は、Aさん:1,183万円 Bさん:1,485万円
差は、なんと約300万円となります。「同じ平均4%でも結果はここまで変わる」
この違いは、“最初の順番”だけです。プラスか、マイナスか。
Aさんはこのままだと→20年持たない可能性あり。
Bさんは→さらに長持ちすると推定されます。
これは定率取崩しでも同じです。
「いや、インデックス投資で長期なら平均に収束するでしょ?」
――その通りです。積立期なら関係ありませんが、取崩期は別物です。一度売却した資産は、その後の上昇局面で増えるチャンスを失うからです。
■ 資産が減るリスクへの対策
ここからは重要ポイント、対策です。
1つ目・・・生活費の数年分を現金で持っておく
これによって相場が大きく下がったときに、無理に売らなくて済みます。
2つ目・・・取り崩しを調整できる設計にする 例えば、
① 定額を少し減らす
② 定率を下げる
③ 定額+定率のハイブリッドにする
④ 一時的に取崩しを止める
こういう柔軟性があるかどうか。この辺は、前の動画と同じです。
3つ目・・・最初の5年は守り重視にする
急落時には取崩し額や株式比率を調整する。ここで無理をすると、その後がかなり苦しくなります。
「ところでBさん、最後の3年のマイナスはどうするの?」
――確かに、3年続けて下落してますね。高齢になるにしたがって、リターンがマイナス、これではパニック状態になってもおかしくありません。
■ 運用取崩しの「やめ時」
では、Bさんに策はあるのか? Bさんは、このタイミングで全部を現金化するのも一つの考え方だと思います。その理由は、
①:トータルで勝っている・・・すでに利益が出ている。「勝ち逃げ」で結構!
②:取崩し局面・・・もう“増やすフェーズ”ではない。
③:心理的な安定・・・高齢になるほど判断力は落ちる、下落に耐えるのは難しい。
人生終末近くは、リターンより“安心”です。
ここで、注意。インフレリスク、寿命の不確実性もあり、全額取崩しよりは一部取崩し、株式から債券重視へ徐々に移行、これが人生後半のソフトランディングにベターです。必要なのは「やめ時」ということです。「どう取り崩すか」は設計なんですね。
■ まとめ
・取崩しは「方法」ではなく「設計」
・「平均リターン」は安心材料ではない
・最初の数年が結果を左右する
老後資金は、「増やし方」よりも「減らし方」で差がつきます。
(2026.04)