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今までと同じ所得なのに、ある日から手取りが減る――そんなことが起こるかもしれません。
税金の話? いえ社会保険の話です。
実は多くの高齢者に関係するかもしれない議論がひっそりと始まっています。今日は財務省が公表した資料をもとに、
「金融所得が社会保険料の計算に使われる」というテーマでお話しします。
老後資金を取り崩すだけで、今まで以上に保険料がアップ?
給付付き税額控除、非課税世帯、後期高齢世帯、介護世帯、生活保護など、今後、直接影響する内容です。
■ 財務省資料は何を意味するのか
4月に財務省から「持続可能な社会保障制度の構築 (財政各論Ⅱ)」が出されました。その中に、こんな文言があります。
「社会保険制度の個人単位化が求められる中、公的年金制度の第三号被保険者制度のみならず、 医療保険における『被扶養者』のあり方についても見直しを検討すべき」
これは今話題の第三号被保険者制度改革が主体かと思いきや、『医療保険における「被扶養者」のあり方』、つまり医療制度全体について提言しています。
では、ポイントだけ紹介します。
今後の医療保険制度について「年齢に関係なく応能負担とする」、これを検討していくというものです。この考え方が広がれば、他の所得判定にも影響する可能性があります。
ただ、これはまだ決定事項ではないので、今後どうすればいいかは最後までご覧ください。
■ 取崩しや配当にも影響か
考えてみてください。年金で細々暮らしていて、これまで積立運用でなんとか増やしたお金、それを取り崩していくのに、そのお金も医療保険料の算定対象になる。
もちろん、取崩し額は全額所得ではありません。売却益があっても、その分は取崩し額の一部です。
でも、この株価が数年のうちに2倍以上になった人もいるでしょう。100万円投資したものが2倍になっていれば、100万円が利益です。
それから毎月分配型投信でもらう分配金。これで毎月の生活費に回している人、いらっしゃいます。これも所得判定となる可能性があります。もっとも特別分配金は元本の払い戻しですから、所得にはなりませんが、普通分配金は所得とみなされます。
例えば、毎月20万円(年240万円)取り崩したとしても、そのうちの「利益部分」だけが所得カウントの対象になり得ることになります。
このように今までは所得として見ていなかった金融所得、これを保険料算定に加える方向性なのです。
■ 税金の話ではない、社会保険料の話
「金融所得? それ、何十億も運用資産がある人の話でしょ。自分には関係ない」
――ちょっと待ってください。税金の話とごっちゃになっていませんか。金融所得課税、確かに超富裕層にかかる税金が見直しされています。
今回はそうではなくて、今まで所得に入れてなかった金融所得、譲渡益や配当収入を入れることで、その増えた所得分に応じて社会保険料が上がるという話です。
ややこしくなってきたので、わかりやすく説明します。例えば、
・Aさん
年金300万円 金融資産なし
・Bさん
年金200万円 配当(いわゆる金融所得)100万円
二人とも所得は同じ300万円。でも現在はBさんの方が所得が低いとされる(300<200)。配当は社会保険の所得算定に入っていないからです。したがってBさんの方が保険料は低くなっている場合があります。
そこで、「所得が同じ300万円で負担能力に差がないはずのに、これは公平ではない」と財務省は言っているのです。
Bさんの配当は、長年老後のために運用してきた資産から生まれたものです。その金融所得が申告の仕方で保険料の算定対象になる。そうなると、「老後資金を取り崩して生活する」という資産形成の前提が崩れる可能性があります。
■ 金融所得の課税の仕組み
どうして、こんなことになるのか。
「所得隠しをしているわけではないのに、何か腑に落ちない」
――そう思いますよね。もう一度言います。これは税金の話ではありません。社会保険の話です。
では、なぜ金融所得の一部が今まで保険料に反映されなかったのか?
それは、申告不要制度だと保険料計算に反映されにくい仕組みがあるからです。
その仕組みを簡単に説明します。
金融所得の課税方法には3つあります。
① 総合課税
配当所得は、給与や年金事業所得などと合算して申告することもできます。
これを総合課税といいます。この場合は、所得として把握されるため、住民税や社会保険料に影響することがあります。
② 申告分離課税
株式を売却して利益が出た場合は、通常は申告分離課税です。他の所得とは分けて税金を計算します。ここでは、「税金の計算方法が違うんだな」程度で十分です。
③ 申告不要制度(ここが今回のポイント)
実は上場株式の配当などは、証券会社で税金が源泉徴収されていれば、確定申告をしないという選択もできます。これを申告不要制度といいます。
財務省が問題視しているのは、この「申告不要」の場合です。
源泉徴収では税務署に所得が報告されますが、市町村の税務部局に通されない。そのため、社会保険料算定に反映されていないケースがあります。
つまり今回問題になっているのは、「申告不要制度を利用した金融所得が、社会保険料の算定に十分反映されていない」ことなのです。
■ NISAとの関係
「NISAで運用していれば、非課税で関係ないのでは?」
――そう。非課税だから当然申告不要。財務省は、「NISAなどの非課税所得は、保険料においても賦課対象としないことを前提とする必要がある」としています。また預貯金の利子も対象外とされるようです。その点は今のところ安心ですね。
「では、金融所得を所得算定で連携したらどんな影響があるの?」
――そこですね。高齢者になると一般に「税金より社会保険の負担の方が重い」というのが実感ですね。
実際、税金よりも医療保険料や介護保険料の方が家計への影響が大きいケースも少なくありません。だからこそ、申告方法次第で金融所得が社会保険料の算定に反映されるかどうかは、多くの方にとって見過ごせない問題なのです。
所得の境界ラインをちょっと超えただけで、保険料がぐんとアップ—それは、中・低所得世帯ではさらに実感があるでしょう。
■ 社会保険料のアップ率
では、所得がこれだけ上がったら、実際に保険料がどれだけ上がるか?
ここは難しいところです。後期高齢者医療保険料は都道府県ごとに違います。例えば東京都でも所得割率と均等割があります。したがって全国共通で「○万円増える」とは言えません。
そこで、概算で見てみます。
例えば所得割率が約10%なら
所得(収入ではありません)200万円増で → 所得割約20万円増
実際には軽減制度、賦課限度額、均等割などがあるのでそのまま20万円増えるわけではありません。これはあくまで制度が今のままの所得計算で金融所得が入ってきたと仮定した場合の例です。
「所得200万円増」――運用を取り崩してしている人にとってはかなり現実的な話ではないですか? もちろん収入と所得は違いますので、そこは取り違えないようにしてください。
■ 今できること――所得の考え方が変わる可能性 (1)
今後、金融所得をどう考えるかという議論が広がる可能性があります。ただし「まだ決まった話ではありません。では今からできることは?
「じゃあ、今のうちに現金化しておけばいいの?」
――その必要はありません。理由は3つあります。
① まだ制度が決まっていない
今回の資料は、あくまで財務省の提言です。今後、
など、肝心な部分が決まっていません。ここで資産配分を大きく変えるのは早計です。
② 現金化にもデメリットがある
例えば、1000万円をすべて現金化すると、
という別のリスクが生じます。
つまり、「制度が変わるかもしれない」ことだけを理由に資産を全部現金へ移すのは、合理的とは言いにくいです。
③ そもそも「金融所得=取崩し額」ではない
先ほども触れましたが、毎月20万円(年240万円)取り崩すとしても、
ですから、「毎年240万円取り崩す=240万円全部が保険料算定対象」という前提ではありません。その把握が大事です。
■ 今できる準備は?
だいじなことは、今から制度変更に備えて情報を整理しておくことです。
① 自分の収入の内訳を把握する。
② 生活費のうち、元本の取り崩しと運用益を区別して把握する
③ 資産の置き場所を確認する
これまで私たちは「税金」ばかり気にしてきました。しかし、これからは「所得として何がカウントされるのか」が家計を左右する時代になるかもしれません。だからこそ、制度改正の動きを一緒に見ていきましょう。
さいごに、今回のお話はまだ決定事項ではありません。行動を焦らずに新しい情報をお待ちください。
(2026.07)