最近の動画配信の内容を、コラムとして書き起こしたものです。図解などを参照する場合は、動画と合わせてご覧ください。「FPチャンネル 資産づくりから承継へ」の登録で過去配信が視聴できます。ご登録よろしくお願いいたします。
■相続すれば取得費はリセットされる?
前回、金融資産は相続があっても、元の取得者(被相続人)の取得費を引き継ぐとお話ししました。後でご覧ください。
そこで、こういう疑問がありませんでしたか?
「それなら1回でも相続すれば、取得費がリセットされる?」
――答えは、NO. 取得費は「相続時の時価」に書き換わらず、亡くなった方が「購入した時の価格」がそのままずっと引き継がれます。
例えば夫(被相続人)が生前取得した株を、妻が相続した。相続後これを売却すると、売却益は「譲渡額から夫の取得費を差し引く」。
これは2次相続以降でも同じだということです。これがNISA口座なら違いますが、今回は特定口座など課税口座での話です。
そこで、2次相続が問題になります。これは子の問題にも関わってきます。
■税金が減る事例
先ほどの疑問は、「取得費加算の特例」の話につながります。
取得費加算の特例とは、相続時に払った税額を相続開始から一定期間(3年10カ月以内)に売却すると、その税額を取得費に加算できるというものです。つまり、その分、譲渡益を圧縮できる、税金も安くなる、ということになります。
そこで、2つの誤解があります。
① 1回相続してそのまま持ち続けると、2回目の相続では「取得費は相続税評価額にリセットされる」。さらに、
② 1回でも相続税を払ったら、その税額が「いつでも取得費に加算される」 。
では、これらの誤解を解くために、事例で見ていきましょう。
ここではシンプル化して金融資産のみの相続財産とします。なお、詳細な計算過程は省略します。
●共通前提
結論を先に言います。誤解なく行けば、資産規模によっては相続後の対策で税金が数百万円も減ります。
■パターンA(対策なし)
では、見てみましょう。金額はポイントだけ言います。
●1次相続
●2次相続(子)
●4年後売却
●合計税額:約2020万円(385+235+1400)
■パターンB(対策あり)
次は取得費加算の特例を使った対策です。表の左はパターンAで何もしなかった場合です。
●1次相続
●2次相続
ここまでは、パターンAと同じです。
●売却(子の株)・・・1次相続の1年後
・・・1次相続税385万円を取得費に足すことで課税される利益が減り、税金約623万円
●売却(母の株)・・・2次相続1年後
・・・(2次相続税235万円を取得費に加算して税金約653万円)
●合計税額 1896万円(385+623+235+653)
AとBの差・・・・約124万円
取得費加算で増えるのは、子と母で620万円分(385+235)。この分だけ課税額が圧縮され、節税効果となります。
今回のケースはシンプルな事例で約124万円の差です。でもこれが、相続税額がもっと大きくなるケース――例えば資産規模が大きい場合や不動産が多い場合には、この差が数百万円から1000万円単位にも広がることもあります。
■カン違いの整理
取得費については、かなり多くの人が勘違いしています。ここで整理しておきます。
●相続しても、その証券が買われた時の価格は変わらない
――被相続人が買った時の取得費が相続人にも引き継がれます。つまり、含み益もそのまま引き継がれるのです。
●1次相続の税額は、2次相続で取得費加算に使えない
――これ、かなり間違いやすいです。取得費加算の特例は「2次相続まで引っ張れるか?」という問題ですね。基本的に引っ張れません。取得費加算には制限があるのです。
① 「その相続で払った相続税」を
②「その相続で取得した人」が
③「一定期間内に売却した場合」に限る
相続開始から3年10カ月以内(相続税申告期限から3年以内)。これが一番の落とし穴です。ここでよくある会話。
「まだ上がりそうだから売らない」
「どうせ売るときは、まだ特例が使えるでしょ」
――これ、両方マズいです。
期限内に使わなければ損。先ほど事例で見た通りです。
1つ加えると、購入時の価格が不明な場合、税務上は譲渡価格の5%相当額を取得費とみなすことができます。
でも、これって、95%が売却益となって、かなりの税金になりますよね。事例のように5000万円で買った株が1億円になった時、5%だと500万円が取得費。残り9500万円に課税されます。
■戦略的保有を考える
それじゃあ、株高の時は、どうすればいいのか。すでに相続して財産をもらった例で考えてみましょう。
●配偶者(母)→2次相続まで保有し、子が特例を生かす
・配偶者は税額軽減があるので特例は使えない(母は税金を払っていない)
●子→売却が有利になりやすい(1次、2次相続とも言える)
・含み益が大きくても取得費加算特例の効果が大きい。
つまり、こうなります。
子は2次相続時の相続税を使って、取得費加算の特例が使えます。
誤解しやすいのは、子が1次相続時の相続税を使って、2次相続でも特例が使える、というカン違い。先ほど見ましたね。
1次の相続税を「取得費に乗せる権利」は2次では消える。ここ、かなり重要です。
■まとめ
金融資産の相続では、1回目相続で課税、2回目相続で課税、売却で課税
つまり、何の対策もなく持っているだけでは、課税が積み上がるだけです。
今回のまとめはシンプルです。
混乱しやすいですね。
「取得費は“原価”の話、相続税は“時価”の話」と理解しておきましょう。
相続は、“もらう”だけの話ではありません。“いつ動かすか”を決める話でもあるのですね。
最後に大事なことです。「親がいくらで買ったか分からない」という悩みがあります。特定口座なら証券会社に記録があるので確認してください。一般口座の場合は、古い顧客勘定元帳を遡る必要がありますので、生前に確認しておきましょう。
途中でも触れましたが、NISAは相続時に時価で取得した扱いになります。つまり、「NISAは“相続税対策”ではなく、“譲渡税対策”」なのです。
なお、「相続で面倒なこと考えたくないから生前贈与する」という考え方もあるでしょう。これは、別のテーマで配信したいと思います。
(2026.05)