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退職金で一発逆転の危うさ  60代がハマる「劇薬」的投資の罠

今回は、50代〜60代の方が特に気をつけてほしい、「投資の劇薬的心理」についてお話しします。

実は、老後不安が強い人ほどハマりやすい心理の罠があります。不安を一気に取り除く一発逆転! 

宝くじ? 賭け事? 投機? 

それは――デリバティブです。

今日はその仕組みと、そこにはまり込む心理を中心に見ていきます。

 

■ 5060代のリアルな老後不安

まず、こんな方を想像してみてください。Aさんとします。

  • 中企業を定年退職
  • 退職金は800万円
  • 年金は月13万円
  • 賃貸暮らしで、老後の生活に不安
  • 再就職しても月十数万円
  • 「このままじゃ心細い

Aさんのような状況は、決して珍しくありません。世の中は、大企業の社員ばかりではないのです。

そんなとき、知人から、こんな話を聞きます。

「先物やオプションにはちゃんとした投資理論がある。うまくやれば一度の利益が大きいらしい」

知人のちょっとした知識からくるものでしょう。今はネット証券の口座でも先物やオプションの申し込みができてしまいます。

Aさんは、こう思います。「確かにこのままじゃ、老後が詰んでしまう」

残りの人生の時間を考えると、ちょっとしたきっかけから本気で「一発逆転」を考えてみたくなるのも無理ないですよね。

 

■ 劇薬的心理とは何か

もし、あなたの退職金800万円のうち10万円を使って、 「一度で100万円儲かる可能性がある」としたら、 どうしますか?

多くの人は「魅力的だ」と感じるでしょう。 これが劇薬的心理です。

ここからは、デリバティブを例に説明します。

ただ、言っておきます。デリバティブが劇薬なのではありません。 劇薬になるのは、それを扱う人の心理です。

行動ファイナンスでは、人が不安や損失を抱えたときに次の3つのクセが出ると言われています。

3つのバイアスの心理

1.   損失を回避するより「損失を取り返したい」心理が勝つ

2.  確率ではなく「結果」だけを見る

3.  自分だけは例外だと思う

老後不安が強いと、 「増やさないといけない」という焦りが生まれます。しかも限られた期間に。焦りがあると、 「うまくいけば大きい」という結果だけを見るようになります。

#この3つが揃うと、 どんな投資商品でも劇薬に変わります。

 

■ デリバティブ投資の心理

さて、「デリバティブ?」と言われてもピンとこない人もいるかもしれません。

ここからは、デリバティブでなぜ「一発逆転が可能か」を説明し、それにハマりたくなる心理、一種のギャンブル投資について見ていきたいと思います。

先ほども言いましたが、デリバティブを否定するものではないので、そこはご了解ください。

デリバティブの危険な魅力が高齢者を引き寄せる理由には次のようなものがあります。

  • 少額で大きく儲かる(レバレッジ)
  • 損失の可能性が直感的に理解しづらい
  • 「プロっぽい」「高度な金融商品」に見える
  • 誰かに勧められると安心してしまう
  • 老後不安が強いほど「一発逆転」に惹かれる

特に高齢者は、「もう後がない」という焦りと不安・・・。

そこでデリバティブといっても、実際に先物やオプションを取引している個人投資家は、そう多くはありません。投資経験のある人、専業トレーダー、企業のヘッジ担当など、 扱い慣れた人が中心なんです。

「なんだ。じゃあ、自分には関係ない。そんな危なっかしいものに手は出さない」

――でも、ここが肝心なんです。

デリバティブ取引自体は、投資経験があって仕組みがわかれば、誰でも口座開設して始められます。「意外と簡単」――、だからこそ、老後不安や焦りから「一発逆転」を狙って始める人もいます。心理が不安定なときに手を出すことが危険なのです。これは普通の株式投資だって、言えることですね。

 

■ 1回で“人生が壊れる可能性”の損失

ここでは、デリバティブの中で、オプション取引について見ていきます。これは投資講座ではないので、詳しい仕組みや方法についてはほかの動画をご覧ください。イメージを掴んでいただければOKです。

オプションは、「未来の価格で売買する権利を売買する取引」です。なんだかわかりにくい言い回しですね。

・コール・オプション・・・将来に買う権利(値上がりで儲かる)

・プット・オプション・・・将来に売る権利(値下がりで儲かる)

コールの売りと買いでは、表のように同じ株価の動きで損益が反対になります。

 
 

コール買い

コール売り

損失は限定

損失は理論上無限大

利益は理論上無限大

利益は限定

 

■ コール・オプションの買い

では、わかりやすく図で説明します。まずは「小さな投資で、大きな損益が出る可能性のある仕組み」というイメージだけ掴んでください。

これはコール・オプションの買いの損益図です。横軸が株価、縦軸が損益です。

コール・オプションの買いでは、損益曲線は株価が上がるにつれ右上方へ、すなわち利益無限大となります。図ではプレミアム(権利料)10支払い、株価1000が権利行使価格とすると株価が1010以上になれば青い損益曲線が利益となります。

 

■ コール・オプションの売り

一方、 売る側はどうか。買いの図を上下さかさまにした図となります。

プレミアム10を受け取る代わりに、

1000で買い手の権利行使に応じ、損失は無限大となります。

ここが劇薬になりやすいポイントです。

 

■ “一発大逆転”の基本例(オプション)

では実際に、"劇薬"効能がどれほど強烈なのか、数字で見てみましょう。

コール・オプションの“買い”の場合です。

設定 (日経平均オプション)

  • コールオプション(買う権利)
  • 権利行使価格:40,000円×1000円(取引単位)
  • プレミアム:500円(支払うオプション料)
  • 日経平均:40,000→ 41,000円へ(1000円上昇)

損益計算

日経平均が1,000円上昇すると 権利の価値は 1,000× 1,000円=100万円

日経225オプションは、1,000倍したものが実際の金額になります。

利益は 100万円 − 50万円(プレミアム500円×1000倍)=50万円

結果

50万円で50万円増える

これは取引枚数が1枚です。枚数が20枚、30枚ともなれば、数千万円の利益。これが「一発大逆転」の典型例です。これは確かに、劇薬的魅力ですね。ここだけ見ると、「これなら自分もできるかもしれない」と思ってしまうんですね。

 

■ 一発大損の基本例

では、コールの売りはどうか。

設定は先ほどと同じです。ここが劇薬心理と最悪の相性となります。

設定

  • コールオプションを売る
  • 権利行使価格:40,000
  • プレミアム:50万円を受け取る(買いでは支払っていました)
  • 日経平均:40,000→ 41,000円へ(1,000円上昇)

損益計算

日経平均が1,000円上昇すると 損失は 1,000× 1,000円=100万円

受け取ったプレミアム50万円を差し引いても 50万円の損失

結果

さらに株価が急騰したり、権利枚数が20枚、30枚ともなれば数千万円の大損。これが「一発大損」の典型例。そして、損失は理論上、青天井となります。ただ、売りには制限枚数がありますが、どちらも心理が不安定だと劇薬になります。

 

■ギャンブル心理と同じ

先物もオプションも、リスクをヘッジするために使う、必要不可欠な金融取引です。

でも、個人であっても株で損した人ほど、 「取り返したい」という心理が強くなり、 冷静な判断ができなくなる。これはギャンブル依存と同じ心理構造です。

「いや、株で損しているわけじゃない。ギャンブルをしようなどと思っていない。老後の資金不足を何とかしたいだけ」

――そういう考え方は普通です。

しかし、老後への焦りが募って、「一か八か」のような心境がどこかにあると、今言ったような心理に陥ってしまう可能性があります。じつはまじめな人ほど、その傾向があるとも言えます。高齢者の投資詐欺、よく耳にしませんか? 

もちろん、デリバティブは投資詐欺ではありません。正しい知識でやれば効能があります。ただ、無理に退職金をつぎ込み、借金を背負い、老後破綻した例もあります。退職金は人生の最後のライフライン。 ギャンブル的な心理、それが「劇薬」ともなりうるのですね。

最後に、ここに登場したAさん、これからどうしたらいいでしょうか。まず、現状を把握することです。そこから個別に対策をして地に足のついた総合的なプランを考えましょう。具体的な対策は専門家にご相談ください。

(2026.07)

 

 

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