7.プロスペクト理論(損失回避)

 自動運用(ロボアドバイザー) 

■ファイナンス理論で変わるリスクの心理 

 

ロボアドバイザー運用の仕組みは、これまでアナリストやファンドマネジャーがやっていた資産産配分・構築などの作業を「人工知能」が過去の数式分析によって自動で替わって行なうものです。自動運用で最も「人」の知能に取って替わるべき肝となる「人工」の知能の1つが、「リスク許容度診断」(リスクをどれだけ取りうるかという診断)です。 

 

例えばロボアドバイザーでは、リスク許容度診断のため次の質問があります。

 

「今の資産額が10%(あるいは20%など)下落したら、どうするか?」 

 

この質問については、回答次第で従来のファイナンス理論と新しいファイナンス理論(すなわち行動ファイナンス)ではリスクの取り方とリスク許容度に大きな違いが出てきます。 

 

行動経済学の「損失回避」のバイアスのもととなる「プロスペクト理論」Prospect Theory)では、同一金額であっても損失に対する感応度は利得のそれに比べおよそ2.5倍だとされます。投資家は同じ100万円でも、利益すなわちプラスの効用(満足度)よりも損失すなわちマイナスの効用(不満足度)のほうがはるかに強いとされ、それゆえ人は極端に損失を回避したがるというものです。それを踏まえて投資家のリスク許容度を測るとどうなるでしょうか。


先ほどのリスク許容度診断の質問の回答選択肢は、以下の項目が共通項として挙げられています。
. 買い足す
. 何もしない
. 売り払う

 

このときの投資家の取りうるリスクの大きさは、一般には大きい順に「A>B>C」と考えられます。Aは下落時にさらにリスクを取るわけですからリスク許容度は大きいと言えます。Cは利益または損失を確定するので今以上のリスクは取りません。問題はBです。「何もしない」(傍観・待機)はプラス・マイナスどちらにも転びうると考えられます。ゆえにAとCの中間のリスク許容度の位置にあるとされます。 

 

しかし、「損失回避」のバイアスで考えると、投資家は現状の損失を確定したがらず、損失の挽回を望みます。「何もしない」ことによるリスクは小さくなることもあれば大きくなる可能性もあります。仮に損失がさらに進むと、絶対取り戻してやる、と今度はリスクに対して異常に大胆になり、さらに有り金全部を注ぎ込むこともあり得ます。これは損失に対する感応度があまりに大きくなった結果です。 

 

するとBの投資家は、最大のリスクテイカー(リスクを取りたがる人)と言えます。つまり、急落時に「何もしない」ことは、時間とともに損失が拡大していくと損失感応度はより大きくなり、超ハイリスクの投資行動に出るようになりうるのです。「こんなに損したのだから、全部取り返してやる」と投資額を一気にそして次々と注ぎ込むこともあるわけです。 

 

その結果、投資家の取りうるリスクの大きさは「B>A>C」となり、AとBが逆転します。投資家Aも損失の可能性はありますが、更なる下落時には更なる損失を回避したがる性向があるので追加の買い足しはせず、損失は買い足し分までに限られます。したがって、Bほどの暴挙に出ることはありません。

 

もっとも、「リスクテイクの大きさ」イコール「リスク許容度の大きさ」ではありません。このBの投資家はリスクを最大で取りうるが、そのリスクは最も許容されるべきでないリスクなのです。逆説的ですが、最大のリスクテイクが最大のリスク許容度とは限らないのです。

 

「一発大逆転」とばかりに退職金を注ぎ込んでしまうような人は危険度が大きすぎて、最もリスクを取ってはいけない人という意味で、逆にリスク許容度は小さくなります。 

 

人間の心理ひとつとっても、判断材料の解釈によってはリスク許容度が高くもなり低くもなりうるのです。この投資家心理を、AIいやロボアドバイザーのシステムを構築するアナリストやファンドマネジャーはどのように組み込むのでしょうか。

 

人間は今後、人工知能との共存は避けられないにしろ、結局、投資家はどの「人工知能」を選ぶかではなく、それをつくる「人間知能」のどれ(誰)を選ぶかということにすぎないではないでしょうか。

 

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