株式投資
■損失が出た時の心理的行動
●「せっかくここまでやってきたのに」損失につながる
何年も資金を注ぎ込んでいるのに、成果が出ずに損失やコストばかり発生することがあります。思い切って方向転換すればいいのにやめられない。「せっかく、ここまでやってきたのだから」という心理が損失を広げ、失われたコストを大きくしていきます。これが行動経済学でいう「サンクコスト」(Sunk Cost)というものです。今の状況から抜け出せないでいるこの呪縛から解き放たれるには、どうしたらいいでしょうか。それには、「見切る」のか、「待つ」のか、の判断が必要となります。
「見切る」というのは、ある時点で投資をやめて撤退することです。株式投資ならこれ以上傷を深くしないために売却する(損切り)ということです。
「待つ」というのは、文字通り原状回復まで忍耐強く待つことです。株式投資なら株価がどこで下落が止まるのか、そしていつ上昇するのか、それを待つのです。しかし、このやり方ではさらに損失を拡げるリスクもあります。
●投資の「起点」はどこか
そこで次の判断は、「損得の立ち位置」を見きわめることです。例えば100万円で株式に投資したとします。100万円で買ったら、自分の投資の起点は常に100万円であると考えるのが普通です。一般には投資した時を起点として、現在の時点で損しているか得しているかを判断するからです。
しかし、そのようには考えないようにするのです。100万円を投資し、10万円マイナスで90万円になったとしたら、投資家がいま損得の判断をする「起点」は90 万円です。起点を移さなければならないのです。損得判断の起点がいつまでも100万円のところにあると、90 万円からまた100万円に戻ることを期待して待つしかなくなるのです。
投資の起点が90万円に移ったと考えれば、今度は90万円より上がるか下がるかの問題となります。その新しい起点から見て、さらに損失となれば売却するしかありません。もちろんここで売却したからといって、10万円の損失(100万円-90万円)が帳消しになるとはかぎりません。あくまで10万円のマイナスを拡げるか縮めるかの問題です。
この状況下で、自分自身が受け入れられるトータルの損失をあらかじめ決めておきます。これが「損失許容点」の考え方です(言い方を変えれば「リスク許容度」)。どこまでの損失なら許容できるか(耐えられるか)。例えば20%の損失が出たらすっぱり売却するという考えができるかどうかです。
●損失に対しては過敏になる
このような「起点」の考え方がなぜ必要でしょうか。これは「プロスペクト理論」における「参照点」(レファレンス・ポイント)の考え方で、プラス・マイナスの中間の起点のことをいいます。人は同じ数値の幅でもプラス(利得)よりもマイナス(損失)に対する感応度が異常に過敏です。損失が拡がることで、損失に対してより過大な過敏性が判断を誤らせることになります。だから、常に損か得かの判断の基準とすべき起点(参照点)を設置しておかなければならないのです。
私たちは、客観的にみればほとんど起こりそうもない損失について過敏に反応してリスクを避けるくせに、客観的にみてほぼ確実に実現しそうな損失に対してはそれを確信することができず、そのため大胆にもリスクを過大にとったりするものなのです。
人は、最初から悪い事態を想定して行動などできにくいものです。だからこそ、ルール決めをしておかないと、いつまでたっても「せっかくここまでやってきたのに」という強い呪縛にますます捉われていってしまいます。この「せっかく」という、沈められた費用(サンクコスト)とともに身動きできなくなることになるのです。