1.現在バイアス(現在志向)

公的年金

■今もらうと得するという心理的行動

 

●年金は早くもらうと得?

代表的な行動経済学の理論の中に「現在(志向)バイアス」Present Bias)があります。現在バイアスとは、人は将来得られる利得より、現在得られる利得をすぐに欲したがる、というものです。今日もらうと損する(逆に言えば、明日もらえば得する)とわかっていても、今日もらうことを欲してしまう心理的行動です。 

 

これに関連して、公的年金の繰上げ・繰下げについて考えたいと思います。現行制度での公的年金は、本来受給が65歳です。65歳より早く受給したい人は、65歳から1ヵ月単位で60歳まで前倒しで早くもらうことができます。これが「繰上げ受給」です。一方、65歳から1ヵ月単位で70歳まで後ろに倒して遅くもらうこともできます。これが「繰下げ受給」です。 

総額で見ると、70歳繰下げの場合は82歳以上長生きすれば65歳受給より多くなります。一方、60歳繰上げの場合は77歳以上生き続けると本来の65歳受給より総額は少なくなります。つまり、長生きを期待できない人は、早めに繰上げて目の前の年金をもらった方が得と言えますが、自分が長生きしないという確証はありません。 

実際に受給者が減額と増額、さらには生涯の総額を正確に計算して選択しているとは思えません。繰上げの主な理由を見てみると、次のようになっています(厚生労働省「老齢年金受給者実態調査」平成28年)。 

・減額されても早く受給する方が得だと思ったため(18.0%) 

・年金を繰上げしないと生活ができなかったため(18.0%) 

・生活費の足しにしたかったため(17.0%) 

・その他・不詳(47.0%) 

「早く受給する方が得」「生活の足し」とあるのは、繰上げると得しそうだと思う人にとっては利得が目前にあればあるほど、その効用は大きくなるからです。つまり、60歳でもらえる年金額は65歳でもらうより、本人にとってはるかに満足いく(経済的効用が大きい)ものなのです。 

●遅くもらうとどうなる?                                 では、繰下げの場合はどうでしょうか。繰下げの最大の問題は、繰下げ受給の開始時期まで年金がもらえないことです。65歳でもらえる年金を70歳まで繰下げたら、その期間は無年金になります。そのうえ、繰下げしたときの受給総額が65歳から受給したときの受給総額を上回る(82歳)まで生きられるという保証はありません。 

将来多くもらえるとわかっていても先のことは分からない、だから今(65歳)もらえるものは今からもらう。繰上げ受給者(受給者全体の34.1%)に比べ繰下げ受給者(同1.4%)の方がはるかに少ないのも、実際の損得は別として現在バイアスと同じ心理からでしょう。 

「繰上げしないと生活ができなかった」という逼迫した生活者にとっては、減額されても目前で手にできるお金の効用は大きい。単に生活費として必要というだけでなく、減額の大きさよりも本人の効用の大きさの方が確実に上回るからです。逆に、将来の増額分が本人の効用(心理的満足度)より下回れば、繰下げ受給する者はいないでしょう。 

現実問題としては、この増額率・減額率の大きさと効用の大きさを冷静に分析して選択することが重要になります。  

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