動画配信の内容を文字起こしして、コラムにしたものです。図解などを参照する場合は、動画と合わせてご覧ください。 

 

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2.退職後の資産、どう取り崩す? リスクに負けない3つの取崩し法とは

あるシニアの方の悩み

 シニアのAさんの悩みはこういうものです。

「退職金をもらって、それを運用しながら取り崩していけばいいって言われたけど。どうやって取り崩したらいいのかわからない。何より不安なのは、運用中に下落して、死ぬまでにお金が尽きることだよ」

……そうですよね。だったら「全部預金でいいか」って思ってしまう。でも、預金だけではインフレにも、長生きリスクにも対応しにくい。

じゃあ、どうしたらいいか? 一緒に考えてみましょう。

 

●毎月分配型投信の問題点

 そこで、「毎月分配型投資信託」が一つの選択肢としてありますが、注意点があります。主なデメリットは以下の4つ:

 手数料が高めである

  分配金で元本を食いつぶす可能性がある

  分配金が再投資されず運用効率が劣る

  NISAなどの税制メリットを活かしにくい

こうした理由から、「自分で取り崩す」という選択肢が注目されています。

 

定期売却(取崩し)の3タイプ

 代わって、別の選択肢があります。それが「定期取り崩し」の方法です。最近では証券会社のサービスとして期待されています。代表的な3つの方法がこちらです。

  定額指定(定額取崩し)

  定率指定(定率取崩し)

  期間指定(期間均等取崩し)

2025年現在、楽天証券やSBI証券が提供しています。今後は同じサービスが広まることが予測されます。

これらを順番に解説していきます。

 

定額指定(定額取崩し)

最もシンプルな方法が、定額取崩しです。

  • 毎月または毎年、一定金額ずつ取り崩す

例えば毎月5万円、または毎年60万円ずつ取り崩す、と決めてしまう方法ですね。

毎月一定額売却していきます。売却金額は任意に設定できます。

 手元収入が一定になるので、公的年金のような感覚で使えるのがメリットです。ただしデメリットも。相場が下落したとき、たくさんの口数を売ることになり、資産が減りやすくなる傾向があります。

 

●定率指定(定率取崩し)

次は、定率取崩しです。この方法は、

  • 毎年、残高の定率ずつの口数を取り崩す

 残り保有口数の1%を売却していきます。この取崩し率も任意設定です。一般的な設定率として45%がよく使われます。

この特徴は、残高に一定率かけて取り崩すので、取崩し額が変動することです。市場が上がれば取崩し額も増えるし、下がれば減ります。つまり、市場の動きに応じて「自動的に調整される」のがメリットです。ただし、収入が安定しないのがデメリットですね。

 

期間指定(期間均等取崩し)

 3つ目は、期間均等取崩しです。これは、

  • 例えば、期間を決めて均等に資金を取り崩す方法です

 つまり、取崩し期間の終了時を決めて、「60歳から90歳までの30年で使い切る」といった具合ですね。

 保有口数100万口のうち、2,777口を売却します。売却口数は、100万口を360月(30年×12月)で割った1月分です。

計画的で安心ですが、逆に言うと「長生きリスク」に弱い。想定期間より長く生きた場合、資金が尽きてしまう可能性もあります。

 

3つの取崩しの資金寿命

 さて問題は、自分にとって必要な額を取り崩していって、実際にその資金がどれだけ持つか、です。

 そこで、ここまでの3つの方法による資金寿命を比較してみました。シミュレーション条件は次のようになっています。税金は考慮していません。

  • 元本:1,200万円
  • 運用利回り:年率2%
  • 取崩し期間:20

取崩し方法は次の3パターンです。

  ・定額法は、毎年60万円ずつ取り崩し

・定率法は、毎年5%ずつ取り崩し

・期間均等方は、20年間で均等に取り崩す

 結果はグラフのとおりです。

 

  ①定額取り崩し

一定額60万円を取り崩していくため、初めは安心ですが、後半で資金が足りなくなるリスクがあります。

②定率取り崩し

この方法は、毎年5%の取崩しなので、資金が一番長持ちします。ただし、取崩し額は年々減少し、生活費の確保が難しくなる可能性もあります。

③期間均等取崩し

これは毎年の取崩し額は約73万円。ちょうど20年で資産を使い切る設計なので、長生きには対応しにくいですね。

  

下落リスクにはどうするか?

さて、取り崩しで一番気になるのが「相場が下落したとき」ですよね。

基本的に分散・長期運用しながらリスク回避の方法をとることを前提として、ここまでの3つの取崩し法に共通する対策はないか? ここでは次の4つを紹介します。   

一部もしくは全部の運用をやめて、売却・現金化する

売却はせず、「取崩し設定」を一時解除して相場の回復を待つ

売却はせず、「取崩し設定」を変更し、定額を少額に、または定率を低くする

「取崩し設定」を解除し、3カ月または6カ月おきに都度自分で売却する

 以上の操作は、サービス取扱い証券会社のサイトで簡単にできます。どれを選ぶかは「資産全体の状況」と「生活費の必要度」によって変わってきます。

 

下落リスク対策のいろいろ

 では、一つひとつ見ていきましょう。

 一部もしくは全部の運用をやめて、売却・現金化する

 これは、リスクは回避できますが、回復の波に乗れなくなります。現金化できるので当面の生活資金には困りませんが、インフレリスクにさらされます。

 ② 売却はせず、「取崩し設定」を一時解除して相場の回復を待つ

回復を期待できますが、生活資金が足りなくなるリスクがあります。資産が減るペースを抑えられますが、心理的に「いつまで待つか?」という不安と葛藤が続くでしょう。

 ③ 売却はせず、「取崩し設定」を変更し、定額を少額に、または定率を低くする

 これは柔軟な方法で、少しでも資金が確保できる反面、生活費が不足する可能性もあります。それに下落が長引くと、じわじわと資産減少する可能性もある。

 ④ 取崩し設定を解除し、3カ月または6カ月おきに都度自分で売却する

これのメリットは、市場の回復タイミングを見ながら売却する、売却しない選択ができることです。反面、自分で判断する手間・ストレスがかかり、短期的な変動に惑わされやすいリスクもあります。

 理想として言えば、もともと下落リスクを見込んで運用しているので、運用状況に合わせて取崩し額を調整する、つまり③の方法が一般的にかなっているかと思います。以上、どれが良い・悪いではなく、「自分に合った方法」を選ぶのがポイントです。

 

定額と定率の取崩し、どっち?

 結局のところ、どの方法がいいかは、個人の状況により変わってくることになりそうですね。それでもどっち? と迷われるかもしれません。それについて参考に挙げておきます。

期間均等は、取崩し期間を限定しますので、「資金の長生き法」という点では、ほかの2つとは少し違います。残りは、定額法か定率法です。

 この2つについては、ここまでをまとめて比較してみました。

 取崩し額、下落時の影響、メリット、デメリットは、この表のとおりです。毎月の生活資金として取崩し額を重視するか、それとも資金残高をできるだけ長生きさせるか、それらの点で考えてみたらどうでしょうか。

 

迷ったらハイブリッド法もある

 とはいえ、なかなか選択できない方もいるでしょう。そういう場合は、Aファンドは定率法で、Bファンドは定額法でとリスク調整したハイブリッド法もあります。

 たとえば成長型の株式ファンドAなら定率法で5%取崩しにすると、上昇時に利益を取り込むことが可能です。

 また安定型の債券ファンドBなら定額50万円取崩しで、毎年安定した生活資金を確保できます。

このハイブリッド法のメリットは、商品ごとに役割を分けられることと、個別に残高・収益状況が把握できることです。つまりどれくらい減ったか、どの部分から取り崩しているかが見えるわけです。

 これに、毎月の公的年金を組み合わせることで、ハイブリッド法も生きてくるかと思います。

(2025.05)

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