年金改正案が成立しました。今回の配信は第4弾。
「子どもが3人いる家庭で、年金の加算額がなんと500万円も増える――そんな年金改正が、実は決まっていました。どんな仕組みか。どんな影響があるか。
■子の加算が増額される
子の加算は老齢年金、障害年金、遺族年金にあります。年金法で「子」というのは18歳未満です。
今回は関心の高い遺族年金における「子の加算」をテーマとします。図をご覧ください。大きな改正は、加算額です。2028年4月から変わります。
改正前は子どもが3人いれば、年額558,400円(239,300円×2人+79,800円)。
改正後は845,100円(281,700円×3人)。年額の差額286,700円が増額されることになります。
これは1年だけの話ではありません。3人ともまだ幼少であれば、18歳になるまで14~15年あります。ざっと、400万円~500万円も増えることになります。
「え、そうなの?」・・・本当か、実際に後で生涯を通した受給額を試算してみたいと思います。
■「子の加算」はこう変わった
次の図をご覧ください。先ほどは、加算額の変化を見ました。これは新設される枠です。
現行では、青枠の所は、子の加算はなしです。
赤枠が今回改正で新設される部分です。この①②③のうち、③に注目してください。遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金にも適用されることになります。ただ、 「基礎年金+厚生年金」の二枠分もらえる」・・・とは思わないでください。加算は、遺族基礎年金か遺族厚生年金のどちらか一方につくというルールです。ダブルでもらえるわけではありません。
両方の要件が該当する場合は、厚生年金のほうに加算されます。「どっちか該当しない場合があるのか?」
いえ、年金加入して保険料の滞納もなければどちらも受給要件に該当しますので、それほど心配されなくて大丈夫ですよ。
■子が3人の加算額の具体例
例えば、子が3人いる妻Aさんの場合を考えてみましょう。現在0歳、1歳、2歳。仮に、この時点で夫が亡くなったとします。
遺族基礎年金は83万1700円。
改正前では子が3人で加算額は55万8400円です。これが改正後では、84万5100円。3人分合計の額です。その差額は年額で28万6700円となります。
子の加算は、18歳年度末で打ち切りになります。Aさんの子は、1歳ずつの年齢差ですから、加算始まりと加算終わりが1年ずつずれますが、それを踏まえても、十数年分の加算があることになります。それを見ていきましょう。
■「子」3人の受給全体パターン
わかりやすくするため、Aさんの生涯の受給パターンを図にしてみました。
「子のある妻」の期間は、最初の子が0歳から始まり、3番目の子が18歳までの20年間です。
末の子が18歳になると、その年度末から遺族基礎年金及び子の加算はなくなり、「子のない妻」になります。
「子のない妻」の受給パターンは、前回の配信で詳しく説明しました。合わせてご覧ください。
■子の加算で総額500万円の増額
2つ前の画面で、子が3人いると、加算額合計は最大で年額84万5100円になることを見てきました。そして前の画面では、子の加算期間は最長で20年間に及ぶことも見ました。
その期間のトータルでの加算額について、改正前と改正後を比較したのがこの表です。
Aさんが遺族基礎年金を受給できる間に、受け取れる子の加算額の総額は516万円増額します。
「そうか、増えるんだね、よかった」・・・で、終わらせないでくださいね。前回配信の「子のない妻」の遺族厚生年金では、無期給付から5年の有期給付になることで、大幅な給付減額になるため、対策の一つとして保険の見直しや働き方の変更も視野に、と提案しました。
「子のいる妻」の場合も同じです。生涯で500万円も違えば、「子の加算」がある期間はもちろん、「子のない妻」の遺族厚生年金の受給期間を合わせて対策の見直しが必要ですね。
特に夫が30代でなくなった場合、厚生年金の加入期間が短くなり遺族厚生年金の受給額は抑えられてしまいます。
■子が遺族基礎年金を受けられる要件
ここまでは、「子のある妻」(あるいは夫)の受給の話です。子を養っていくうえで、妻つまり母親が遺族基礎年金を受けられない場合もあります。それが、大きく変わりました。そういう場合でも、子が受給できるようになったのです。
・子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っている間、あるいは子と生計を同じくする父または母がいる間・・・こういう状況では、子自身には遺族基礎年金は支給されません。これは変わりません。
改正点は、以下の場合です。厚労省の資料を見ながら説明します。
事例1.元夫の死亡後、妻が遺族基礎年金を受給していたが、妻が再婚したため、妻は遺族基礎年金を受け取れなくなった。
・・・妻(こどもの母)と生計を同じくしていても こどもは遺族基礎年金を受け取れるようになります。
事例2.夫の死亡後、妻は収入要件850万円を超えているため、遺族基礎年金を受け取れない。・・・この場合も同様にこどもは遺族基礎年金を受け取れるようになります。
事例3.離婚後、こどもを養育していた元夫(父親)が死亡したが、 元妻(母親)は、元夫の死亡前に離婚していたため、遺族基礎年金を受け取れない。
・・・これが、元妻(こどもの母)に引き取られて、生計を同じくしていても、こどもは遺族基礎年金を受け取れるようになります。
事例4.祖父母などの直系血族(または直系姻族)の養子となり、生計を同じくしていても、こどもは遺族基礎年金を受け取れるようになる、ということです。
つまり、子の意志によらずに受給の選択が狭められてしまうことを回避する、という意図ですね。
ここは、複雑で個別な事例となります。該当する事例があれば、静止画にして確認してくださいね。
■「子」が3人いる生涯モデルケース
「子」 がいる妻あるいは夫にとって、遺族基礎年金を受給できる期間が非
常に大事であるとお気づきかと思います。そこで、おおよその受給金額を入れたモデルケースを掲げておきます。
夫は厚生年金加入8年、これまでの平均月収35万円。遺族厚生年金はおよそ43万円。妻はパート収入月収10万円で試算しています。
「子のいる」期間は、子の加算、遺族基礎年金、遺族厚生年金、そして自身のパート収入、これらを合計すると最大330万円ほどになります。
末の子が18歳以降になると、176万円と大幅に減ってしまいます。
また、65歳以降は、もしパート収入がなくなれば、これも厳しい収入状況になりそうです。なお、40歳からもらえる中高齢寡婦加算は、2028年度より逓減していき、20年後には廃止になるため、ここには入れてません。
このように、生涯全体を見渡したうえで、収入と働き方プランができれば
いいかと思います。
家族構成や働き方、保険の見直し。この改正をきっかけに、家計の安全確認をしておきましょう。
(2025.06)