■年金制度改正案の全体像
まず、今回の主な改正内容の全体を見てみましょう。
1つ目は、社会保険の加入対象の拡大
2つ目は、在職老齢年金の見直し
3つ目、遺族年金の見直し
4つ目は、標準報酬月額上限の引き上げ
5つ目に、子の加算額、配偶者の加給年金の見直し
それから、最後まで与野党でもつれた「基礎年金の底上げ」問題があります。これは次の財政検証で取り上げることで合意されました。
今回は内容が多岐にわたり、かつ深いので何回かに分けて配信していきたいと思います。そこで、最初の回は、1つ目の「社会保険の加入対象の拡大」です。
■働き方への影響とメリット
この改正案の中身に入る前に、どういう人達に影響があるか先に見てみましょう。
・パート主婦の場合
「年130万円を超えないようにセーブしてたけど…」
→これは、106万円でも社会保険の加入対象になります!
→社会保険料支払いで手取りが減る、でも将来の年金が増えることに。
・非正規社員の場合
「うちは小さい会社だから関係ないでしょ?」
→企業規模要件が段階的に撤廃されます!
→つまり、小さな会社でフルタイムじゃなくても社会保険に入る人が
増えることになります。
・アルバイト学生の場合
「学生は対象外だよね」
そう、これは現状も将来も適用対象外。でも今後の議論には要注意です!
では、社会保険加入のメリットは何でしょうか。それは、短時間労働者でも、厚生年金に入ることで将来の年金が増えることです。それから、出産や病気で働けなくなった時の傷病手当金や出産手当金も支給の対象になります。つまり、老後の給付や生活の保障が増えることになります。
■とても気になる3つのこと
改正により、働く人はほぼ誰でも収入、時間、規模、業種に関わらず、社会保険に加入できるようになります。
でも、加入しやすくなると聞いて、特にパート主婦の方はとても気になることがありませんか? それは次の3つですね。
1つは、保険料の負担が重くなる、つまり手取りが減る?
2つには、将来年金はどれくらいもらえる?
3つ目は、扶養の扱い、特に第3号はどうなる?
これらについても、一緒に見ていきたいと思います。
■社会保険の適用要件が拡がる
その前に、社会保険の適用要件がどのように拡大されるか。
①賃金が月額8.8万円(年収106万円相当)以上
この要件が撤廃されました。年収106万円以下でも社会保険に加入できます。いわゆる「106万円の壁」が取り払われます。
②週所定労働時間が20時間以上
これは、当面は残りますが、最低賃金の上昇により、実質的には“週20時間で社会保険加入”が標準となる見込みで、3年以内に撤廃となります。
③学生は適用対象外
④ 51人以上の企業要件撤廃
これは、段階的に撤廃されていき、最終的に、10人以下の企業も適用対
象となります。
⑤常時5人以上の者を使用する個人事業所
5人未満の個人事業所はこれまで通り対象外ですが、常時5人以上では、これまで以上に適用対象業種が増えます。つまり、ほとんどの業種の事業所が加入対象となります。農業、林業、漁業、宿泊業などですね。
■ 【気になる①】短時間労働者への保険料の負担
気になる1つ目。 パートさんなど短時間労働者にとっては、社会保険料の負担が増えることですよね。これまで夫など配偶者の扶養で社会保険料はなかったのに、その分の負担で結局、給料の手取りも減ってしまう。
「それなら、無理して働かなくても・・・」となりがちですね。これは、所得税の「103万円の壁」でも同じでした。特に、社会保険料は労使折半、会社が半分負担してくれるとはいえ、それなりの金額になります。
そこで、このようなパート就業者に対して、社会保険料の負担を調整しようという支援策も出ています。表のように、給与の割合により就業者の負担が軽くなるのです。
# 例えば、月額8万8千円(年額106万円)の人なら、本来労使折半で保険料の50%負担のところ、3年間は25%の負担で済むことになります。簡単に言えば、通常払う保険料の半分ということです。
■【気になる②】扶養からはずれると、どうなる?
気になる2つ目。将来、社会保険料の負担に見合った年金はどうか、ということでしょう。
こちらの表は、今回の年金改正と合わせて、今年改正されたばかりの税制も見込んだ夫婦の家計負担を見たものです。妻が扶養から外れるとどうなるか。社会保険料は一般的な水準で簡易計算します。
前提条件は、
税の「配偶者控除の壁」は123万円、社会保険の加入義務ラインは106万円として、妻の年収を120万円に設定し、試算したものです。
所得税・住民税は配偶者控除などで夫の税負担は変化ありません。
社会保険料は、妻は自分で負担することになり、負担は年15万円~18万円程度になります。それにより、妻の手取り収入は約105万円程度に。
それに対し将来の年金給付の予測額は、厚生年金に今後20年加入として、上乗せ分が月1万円程度、年額約12万円です。
「月1万円増えるだけなのね」・・・・そう。でも、社会保障は世代間扶助ということもあるので、単純な損得とはいかないものですね。税制と社会保険の制度間の決まりを理解して、家計への影響をイメージするのが大事になるかと思います。
■【気になる③】扶養の要件はどうなるの?
気になる3つ目。現在、夫の扶養内で働いているパート主婦の人にとっては、重大なことですね。
「社会保険の106万円の要件がなくなったら、社会保険の扶養からも外れるの?」
これは、年金の第3号被保険者制度にも直結するので、切実ですよね。今回の改正では直接触れていませんが、結果的に第3号を支えていた仕組みが崩れていくと思われます。
今は、収入が130万円未満なら社会保険の被扶養者になります。
「え? 収入要件がなくなったら誰でも社会保険に加入なのよね。そうしたら、130万円の収入基準って何?」
そう思いますよね。これはよく誤解されるところです。
今回の改正で106万円の壁(厚生年金+健保の強制適用基準)は撤廃さ
れますが、「週20時間基準」と「企業規模基準」は当面残ります。
つまり「一定規模以下の事業所で、週20時間以下の働き方なら収入130万円まで」は配偶者の扶養内となります。ですから年金の第3号被保険者、健康保険料負担なしはそのままとなります。ややこしいので、表にしてみました。
改正後も扶養内でいられるのは、「年収105万円・週15時間勤務」です。要するに、収入基準は撤廃されるけど、今のところ
・「週20時間以内」
・「企業規模50人以内」
の要件が残っているから、この範囲内ならば
・「収入130万円以内」の人は社会保険の扶養内に入る
ということになります。 ただし、「週20時間以内」は3年以内の撤廃がめどになります。
■制度改正の施行スケジュール
最後に、肝心の改正スケジュールが気になりますね。図をご覧ください。
① 賃金要件の撤廃・・・・これは公布から3年以内とあります。ですから、それほど猶予があるわけではないですね。
② 企業規模要件の撤廃・・・・これは、早くは2027年10月から対象企業が順次撤廃になります。
③ 常時5人以上の個人事務所の適用拡大は2029年10月からです。ただし、すでに存在する事業所は当分の間、対象外です。
④ 社会保険加入拡大の支援は、2026年10月からのスケジュールとなっています。
ここまで見てきて、この年金改正で社会保険の適用要件が拡大されていくと、第3号被保険者制度は自然消滅になっていくというふうにも見えます。今回の改正は、その布石かとも思えます。第3号被保険者廃止論については、改めて配信したいと思います。
(2025.06)