高年齢者の雇用が確保される! と言われても生きがいは?

 

 20254月から、企業は65歳までの雇用確保が義務化されました。この制度自体、高齢になってももっと働けるんだ、と喜ばしいことかもしれません。でも、そもそも、定年になったらもう休ませてくれよ、と思ってもいいはずですよね。それができない。何が問題なのでしょうか?

 

 

高年齢者の雇用を確保する措置

今回の義務化の背景には、「年金支給年齢の引き上げ」や「労働人口の減少」などがあります。
 働ける人にはもっと長く働いてもらおう!という流れですね。企業は次のどれかを選んで、65歳までの雇用を確保する必要があります。これまで経過措置が取られていましたが、今後は待ったなしです。

 定年の引き上げ(65歳以上にする)

  継続雇用制度(定年後も再雇用)

   # 定年制の廃止

さらに、「70歳までの就業機会の確保」は努力義務として求められています。これにはフリーランス契約なども含まれます。

まだまだ働きたい人にとっては、この制度はありがたいですね。この制度のメリットをざっと見てみます。

  • 年金だけでは不安だから収入があるのは安心
  • 重い責任から解かれ、ストレスから解放される
  • 社会とのつながりや健康維持にもなる
  • 生活のリズムができ、生きがいになる人も

でも逆に、働かざるをえない人って、どういう理由があるか、そこが問題ですよね。 

 

働く側の実態はどうか

 では、実態はどうかということです。

働かざるを得ない「隠れた強制」

「働ける環境がありますよ」という名目のもと、年金や蓄えが少ない人は、「70歳まで働かないと生活がもたない」という実質的な強制労働状態に。

 賃金格差とモチベーションの低下

定年前は月30万円でも、定年後は月15万円前後になど、大幅なダウンが現実です。「同じ会社、同じ職場で、仕事内容もほぼ変わらないのに半額の給料?」と、やる気をそぐケースも多い。

 働きたくても希望の仕事がない

「意欲はあるけど、選べる仕事は単純労働ばかり」など、本人のスキルや希望が活かせない。

若年層との摩擦・軋轢

役職を解かれ、年下の社員に指図されてプライドが傷つき、摩擦も。

 

定年退職で大幅給与ダウン

いちばんの問題は大幅な給与ダウンでしょう。では、定年退職で給与が

どれだけ下がるか、厚労省の最新資料(令和6年賃金構造基本統計調査で見てみましょう。これは大企業の男子の平均給与です。

・55~59歳で 514.1 万円

・60~64歳では 358.4 万円

 50代後半と60代前半では、およそ30%も減少となります。

「だいたい、60歳になったからって能力が変わるわけではない。先月から今月で30%も給料が下がるのか?」・・・大きな企業の人ほど、そう思いがちですよね。でも、データにあるとおりです。「それが嫌なら、定年を機に転職すれば?」・・・。 

転職はもっと厳しいでしょう。ほとんどが今より規模の小さな会社に入るでしょうし、給与体系も低いですよね。福利厚生も十分でないこともあるし、今の会社よりもっと向いてない仕事につく可能性も高いでしょう。それも仕事があれば、の話です。仕事さえ見つからないこともあります。 

 

収入だけで生きがいは満たされる?

 今回の措置は、65歳までは希望すれば誰でも働けるというものです。ここがひとつのポイントです。

でも、ここで、高齢社員の本音が聞こえてきます。

「定年後も働けって…いつまで働かせるの?」

「年金だけで食っていける社会にしてほしい」

「一定以上働いても、年金が削られるのは意欲がそがれる」

「給料が3割も減って、生活は苦しいまま」
「趣味を楽しみたかったのに、そんな時間はなくなる」
「親の介護と仕事の両立なんて無理」
「妻や孫とのんびり過ごす老後を迎えたかった」

特に継続雇用の場合は、60歳でいったん定年退職とし、その後は新たな雇用契約となるのが一般です。そこで、賃金契約は大きく変わります。定年延長、定年なしの場合も実態は変わりません。企業にしたら、社内の同一社員なので就業規則、賃金規定の改定で済ますことができます。

こうなると、「働ける=幸せ」とは限りません。もちろん、人によりますが、
賃金や雇用制度の改善だけでは、心の満足度には追いつかないんですよね。

 

高年齢者に関連する制度

とはいっても、60歳以降も働く人にとって、ほかの制度との関連はけっこう大事です。これらとの兼ね合いで、どのように働くかの判断材料になりそうです。今回の措置と特に関連の深い制度を3つ見ておきましょう。

 1つ目は、高年齢雇用継続給付金(雇用保険)

  • 再雇用後の給与が60歳時の75%未満なら、最大10%が支給される制度です。先ほどのデータの給与30%減から来ていますね。支給対象は原則65歳未満までです。

 2つ目は、在職老齢年金(厚生年金)

  • 働きながら年金を受け取ると、年金の一部がカットされる制度です。
  • 65歳以上なら賃金+年金の月額合計が現行では51万円以上になると減額されます。

 3つ目は年金の繰り下げ受給(厚生年金、国民年金)

  • 65歳以降も働きながら年金を受け取らず、繰下げた年から割増の年金が受け取れます。75歳まで繰り下げると、84%増しに。60歳から受け取る繰上げ受給もあります。

特に年金関連については、今国会で改正法案が可決されると要件が変わりますので、改めて動画配信したいと思います。

 

「働く」「働かない」の選択とライフスタイル

今回の義務化は「希望者全員に働くチャンスを提供する」という趣旨です。
「働かないと生活できない」人も、「働くことで満足感を得たい」人も、自分に合った形を選べるようになっていくのでしょうか。

高齢者にとっての本当のメリットは、「働く/働かないを選べる社会に近づいたこと」とも言えるのではないかと思います。

 「いや、選択の余地などない。働かなければ食っていけない」・・・そういう方もいるでしょう。

 でも、働く、働かないにしても、そこに自分のライフスタイルがないと生きづらくなりますね。

生涯続けられる仕事を持つ。でも、それだけでは足りない。

 旅行、趣味、家族時間を大切にしたり、ボランティアに参加する

あるいは、

 学び、執筆・創作活動に励む、フリーランスとして活動

こうやってライフスタイルって言うと、やっぱり一般論になりがちですね。それは、ライフスタイルって、一人ひとり違うからでしょう。でも、働き方にかかっているのも事実です。だから、お金がないと制限される。自分の「大事にしたいこと」に、どこまで「収入・時間・体力・家族」との関係を振り分けられるか?  

 

高齢者雇用のための諸条件に関心を

 自分のライフスタイルに合わせて働きたいのに、支障のある現実に当たったらどうしたらいいでしょうか。それはきちんと事業主や上司と話し合ってよい方向に持っていくことです。

「雇われの身で、しかも高齢でも働かせてもらうんだから、意見なんて言えないよ」・・・そこはプライドを持っていただければと思います。これまで何十年も会社を支えてきたのですから。

 ここに、厚労省が出した企業向けの「高年齢者等職業安定対策基本方針」というものがあります。これは、その要旨です。

・高年齢者の職業能力の開発・向上

高年齢者の有する知識、経験などを活用できる効果的な職業能力開発を推進する。

・作業施設の改善

体力などが低下した高年齢者が職場から排除されることなく、その職業能力が十分発揮できるよう作業施設を改善する。

#・高年齢者の職域拡大

高年齢者の身体的機能の低下などの影響が少なく、能力、知識、経験などが十分に活用できる職域の拡大を行う。

・高年齢者の知識、経験などを活用できる配置、処遇の推進

職業能力を評価する仕組みや資格制度、専門職制度などの整備により、知識や経験などを活用できる配置、処遇を推進する。

・勤務時間制度の弾力化

就業希望や体力により短時間勤務、隔日勤務、フレックスタイム制などを活用した勤務時間制度の弾力化を図る。

これらは、きれいごとや建前と思えることがあるかもしれません。でも、「建前だからこそ建前を守る」、これにのっとって意見や希望を出すことも大事だと思います。可能な範囲内で、希望する仕事とお金で長く続けられればいいですね。

 (2025.05)

TFICS       お気軽にご相談下さい

個別相談

業務依頼

ご意見・ご質問

●その他のお問合わせはこちら