■退職金がないのは、あなたのせい?
非正規雇用や契約社員の方、就職氷河期世代の方たちは、思うほど退職金が望めないという実情があるでしょう。退職金どころか、契約社員で給与が高くない、したがって給与報酬額を基に算定される老齢厚生年金も多くない。
「秘策があるって、どうせiDeCoやNISAで運用するってことでしょ? 」・・・でも、少ない給料で貯蓄も運用も無理、どうすれば?
まず、次の画面の資料をご覧ください。「就職氷河期世代」に絞って、キャリアによって分かれる退職金を整理し、自身がどこに当てはまるかをイメージできる比較表を作ってみました。
今の自分がどの位置にあるか、まず現実を確認することによって老後のプランも変わってくるでしょう。
■退職金が増えない仕組み
表の
① 大企業や安定企業に就職された方は、1000万円~1500万円、あるいは2000万円以上の退職金も期待できます。
② それに比べ、中小企業就職や非正規雇用労働では、その半分以下。なんか不公平に思えますね。同じ大学を出たなら能力に差はないはず。
さらに表の
③正社員になれず、途中から就職
④非正規雇用が長かった層
⑤転職を繰り返した層
こういう人たちは、なかなか給与も退職金も多く望めなかったでしょう。特にやむを得ず転職を繰り返さざるを得ない非正規や契約社員の場合、退職金査定のための勤続年数が転職の都度途切れてしまう、入社のたびに初任給が下がっていく、という悪しき循環があります。その結果、退職金も少なくなる。
こうした矛盾をなくすために、DC(確定拠出年金)などは転職時に拠出金を持ち運べるポータビリティ制度があります。でも、中小会社ではDC制度を導入してないところもまだ多くあります。
■年俸制で退職金いくらもらえるか
例えば、中小企業勤務のAさん。45歳で年収480万円。転職を何社かせざるを得ず、現在契約社員です。中途入社だと初任給が低いレベルの振出しに戻ってしまい、同年齢の大手社員と比較すると給与は決して高くありません。
Aさんの場合、問題は「年俸報酬」制ということです。「年俸制って、高給取りの場合でしょ?」・・・いいえ、中堅企業の契約社員でもよくあります。つまり、Aさんは「年収480万円」の社員ということです。このどこが問題か? 経験されている方はもう、ご存じかと思います。
「残業代込み、休日出勤手当込み、賞与込み」です。「込み、込み、込み」なのです。賞与込みとありますが、実態は年収に含まれているので「賞与なし」と同じです。
退職金規定はだいたいありません。あっても契約社員用に中途入社は勤続年数、給与査定で低くなります。
これが一般会社の平均年収を超えているなら、問題ないでしょう。そもそも年俸制というのは、一般の査定に収まらない特殊な職種の社員のものなのですが、どういうわけか何年前から中小の会社でもやりだしたのですね。
■3年で残業代はいくらになるか
それでは、中小会社の年俸制のどこが問題だと思いますか? 残業代です。
事例のAさんが毎日3.5時間(夕方6:00から9:30まで)残業したとすると、残業代は月約22万円、1年で約260万円、3年で約780万円になります。
この残業代が付かないということです。つまりサービス残業です。「それなら、残業しなければいいのでは?」・・・ いや、こういった会社に限って、残業は延々と続きます。
「年俸契約制なので、残業代は込みです」と面接時にもっともらしく言われると、そういうものかと納得せざるを得ません。
一時世間でも、未払残業代の問題が大手企業にもあり、残業時間抑制が言われました。でも、いまだに中小企業の実態は変わらないようです。
■残業したら残業代はもらえる
年俸制の契約社員でも、残業代はもらえます。これを取り戻す。これが今回の本題です。
年収が大手企業の役員クラスと同等の年俸契約なら、残業代は込みとされるのが一般です。しかしその年収水準にはるかに及ばない場合、残業代は支払われるべきなのです。つまり、請求できるのです。
「いや、勤務継続中にそんな請求したら、居づらくなる」。・・・じつは、それが退職金につながる秘策なのです。
退職時を見込んで請求するのも1つです。あるいは、いったん未払請求をして、その後に会社の改善の様子を見るのも1つの策です。
というのも、請求期限の時効が原則3年となっているからです。未払残業代の改善の様子のない会社は、高くもない年収の中に残業代も賞与も入れ込んで、会社によっては退職金も込みにして実質賃金を抑えて社員を雇用しようという意図があると言えます。
■未払残業代を請求する準備
厳密には残業代と退職金は性質が別物ですが、取り戻せるものがあれば、それを退職金の代わりとするしかありません。定時退社の会社であれば、退社後の時間を資格取得、投資の勉強、交際・交友など有効に使うことで、別の意味で老後対策になると思います。
さて、本当に残業の多い会社に勤めている人の場合です。私の場合、1日12時間以上の勤務、休日出勤もありました。しかし、それらの手当ては付きませんでした。
具体的には、退職時に備えて次のことをしました。
・就業規則、退職金規定、雇用契約書を保管しておく(コピー可)
・給与明細や年末調整を保管しておく
・毎日の勤務時間を保存する・・・・紙のタイムカードのコピー、電子勤記録などの保存やスクリーンショットをプリントしておく。いずれも難しければ、手書きで毎日の出勤・退社時刻を記録する。手書きで疑義が生じても、会社側に勤怠記録の立証義務があり、その記録と照合すれば事実であることが証明できます。
・できれば、毎日の就業内容などメモ書きでも残しておく。特に残業時のメールの送受信履歴や打ち合わせ記録などは保存しておく。
・補足として、自分の時間給を割り出して、残業代を試算しておくと請求額の目安になります。時間給に法定割増率(通常1.25倍)を掛けることで算出できます。特に請求時効の直近3年分の試算をしてみる。私の場合、未払残業代は数百万円になり、結果的に退職金代わりになりました。
・退職時期が決定していれば、事前に社会保険労務士や弁護士などに請求手続きについて確認しておく。相談料は無料の場合が多いです。
注意したいのは、未払請求は労働基準監督署に訴えますが、労基署は取り立て機関ではありません。実際に会社に請求するのは本人です。労基署→交渉→和解→労働審判・訴訟という段取りになります。これらを専門家に代理依頼すれば、本人の負担は相当軽減します。
■未払残業代請求は合法
法的には、未払残業代請求は合法です。当方に落ち度がなければ、ほぼ請求通り獲得できるでしょう。
ただ、残業代未払の会社とはいえ、心情的になかなか請求を決断できない場合もあります。
特に経営者が苦労して必死に経営していたり、給料の額より専門知識や技術を学べたことを重視すると、「残業代はいいか」という気持ちになります。また、いったん未払残業代の請求をして、和解支払い・改善してくれる会社もあるでしょう。
その場合、会社に残るか、居づらくなって退職するか、それはご自身の価値観で判断されるといいでしょう。
■老後対策のために
残業代請求は、退職金の代わりになる1つの策です。FPは、このような法的手続きに関しては直接タッチできません。ですが、ライフプラン上のアドバイスは可能です。最後に、それを挙げておきたいと思います。
・比較をしないこと・・・他人の退職金や給与の額と比較しないことです。比較してもあまり意味がありません。比較する人が高額な報酬をもらっていても、自分は自分です。
・退職金の額より、退職後のプランを考えておくこと・・・老齢年金の額や、いつまで働くか、月にいくらの収入で生活可能か、など計画を立てておく。将来のキャッシュフロー表作成をお勧めします。
・保険やローン返済など整備をしておくこと
他にもあるでしょうが、このような事前対策やプラン作成はFPなどの専門家にご相談ください。
そして最後に、お金とともに大切なこと、それは精神的な老後生活です。たとえば家族と幸せに生活する、健康で生きがいを見つけるなど、人それぞれの老後生活があると思います。
今回の「退職金代わりに残業代請求を」というのは、老後対策の1つでしかありません。それをご了解いただければ幸いです。
(2025.09)