■加給年金の何がどう変わる?
今回の改正では、加算額が変わります。ただし、現在加算中の方は変わりません。
2025年度時点では、加給年金は415,900円。これが2028年4月以降、新規加算分から367,200円に変わります。月額で言うと、34,658円から30,600円に、およそ1カ月に4000円減ってしまいます。年金をもらう家計にとっては、ちょっと痛いですよね。
なぜ加算額が減らされるのか? 「同じ加給年金でも子どもの加算は増えたんじゃないの?」・・・それについては、のちほど。
■加給年金の加算(夫が年上のケース)
その前に、この加給年金はどういう時に加算されるのか。それを見てみましょう。
厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人(例えば夫、逆の場合もあります)が、65歳になった時、その夫に生計を維持されている配偶者(例えば妻)または子がいるときに、夫の年金に加算されます。いわば年金の扶養手当ですね。
同じ年金加算で「子どもの加算」については前回お話ししました。一般に、65歳受給時に18歳未満の子がいる場合は多くないので、夫と妻の関係のみで見ていきます。
加給年金は、妻が65歳になって老齢基礎年金を受給するようになると支給停止となり、代わって妻のほうの年金に加算されます。これを振替加算と言います。振替加算は、いったん支給されれば基本的に“生涯もらえる”加算です。この2つの加算は、当面はセットにして考えてください。
■加給年金の加算(夫が年下のケース)
こちらは、夫が年下のケースです。夫は妻が65歳時点で夫自身の老齢厚生年金をもらっていませんので、加給年金は加算されません。
■加給年金-どういう人がもらえる?
ここまでに加給年金と振替加算が出てきました。ややこしくなってきたので、表にまとめました。細かく知りたい方は、静止画にしてご覧ください。だいじなのは、加給年金の支給要件です。加給年金の受給主体は、例えば夫とします(夫と妻が逆の場合もあります)。
① 夫が老齢厚生年金の受給者で
② 生計を同じくする65歳未満の配偶者(妻)がいる、そして
③ 受給者本人(夫)が厚生年金加入20年以上
であること。他に、配偶者の収入要件は850万円未満です。
■振替加算-どういう人がもらえる?
一方、振替加算は、受給主体が妻に移ります。
① 加給年金の対象だった配偶者(妻)が65歳に到達し、
② 妻自身の老齢基礎年金を受給開始する、そして
③ 妻自身に振替加算の資格があること
この③は昭和41年4月1日以前生まれが原則で、2025年時点で59歳までです。それ以下の年齢は加算対象外です。
振替加算額は、生まれた年により、238,600円から逓減していき、いま59歳では年額16,033円、月に1,336円です。実際の金額は生年月日により異なります
加給年金も振替加算も、通常であれば、老齢年金の受給申請の流れで手続きが完了します。特別な事情があれば、申請する年金事務所でお尋ねください。
■年金繰下げで加算停止となる
では逆に、加給年金がもらえない場合は、どういう時か。前の表に戻って、「減額・停止の可能性」の枠を見てください。「繰下げ待機中は支給停止」とあります。
厚生年金を繰下げしてしまうと、繰下げ待機中は加給年金がもらえません。繰下げの「待機中」というのは、例えば65歳時点で70歳まで繰り下げると、65歳から70歳までの間です。この期間は、年金をもらう権利、受給権が発生しているのに自己の意思でもらわない。つまり、本来もらっているのと同じとみなして、加算は必要ないよね、という扱いです。
繰下げを希望する場合、2つのことを選択しに入れましょう。
1つは、老齢厚生年金は65歳から受け取り、加給年金はもらいながら老齢基礎年金のみを繰下げる、これは可能です。加給年金は厚生年金に紐づいているからです。
もう1つは、加給年金と繰下げ年金との損得比較です。これは、夫婦の年齢差や繰下げの年数で結果が大きく変わるので、ここは“個別に試算”してみるのがおすすめです。
■加給年金か繰下げ年金か、どっちが得?
加給年金か繰下げ年金か。先ほどの2つ目の案について簡単な試算をしてみました。
夫婦の年齢差を5歳とします。夫が65歳から70歳まで年金を繰下げします。夫の老齢厚生年金は年額150万円です。
これで(A)加給年金ありと(B)繰下げ年金(加給年金なし)の受給合計額のどちらが得かを比較してみます。
結果は、(B)が86歳あたりから得になります。
長生きする自信がある人なら、加給年金をもらわず繰下げも一案です。ただし、70歳受給まで「無年金期間」が5年あるので、生活資金の余裕も必要です。その間、加給年金をもらうなら5年間で約208万円となります。
皆さんなら、どちらを選びますか?
■年金加算が消滅をたどる道
じつは、今回の改正目的の一つに、繰下げ受給の推進があります。年金を繰り下げると加給年金を受け取れない、それが繰下げの妨げの一つの要因だという意見が改正委員会にはありました。それであれば、加給年金そのものを今後廃止に向けて、段階的に減額していこうというものです。
なぜ繰下げ受給を勧めるか。それは長寿社会への年金プランの充実と言えばそうですが、年金保険料による増収プランがあるでしょう。
また、加給年金は、もとは夫が退職して年下の専業主婦を扶養する意味で年金手当てを支給するという趣旨でした。しかし、今や女性も就労することが増え、60代でもなお働くことを希望する人がいます。そうなると、加給年金そのものが女性の就労意欲を削いでいると言われています。これは振替加算も同じで、年齢による受給制限を見れば、振替加算はそもそも対象者が消えつつあり、制度消滅の時期に来ています。
それに、「年下の妻」という設定も、「それなら、年下の年齢差が大きいほど加算の恩恵がある」、
あるいは「そもそも、働けない女性ということを前提に年金を加算する自体、今の時代に合わない」、
「妻が第1号、2号、3号関係なく加算するというのもどうか」・・・・という声が委員会では上がっていました。つまり「不公平だ!」ということです。
■老後扶養の時代ではなくなる?
これに反して、加給年金のうち「子どもの加算」は今回改正で増額となりました。これは、前回詳しく見ましたね。「子どもの加算」は増やしたのに、「配偶者の加算」は減らすのか? という疑問はあります。
「子どもの加算」の増額は、子の扶養手当として税・社会保障面で手厚くしていこう、という政策と合わせています。つまり、子育て支援です。18歳未満の子がいる配偶者への支援という意味でしょう。「それじゃあ、若い女性向けの支援に偏ってしまわないか?」という見方もあります。
じつは、「子どもの加算」は、高齢者向けにもあるんですよ。遺族年金では注目されましたが、老齢年金の受給者の子にも加算されます。例えば、女性が高齢出産すれば、老齢年金を受給する年齢にかかるまで子を養育することになります。そのような家計を支援するというものです。また、出産ではなく、高齢で養子にとって養育する場合もあるでしょう。
加給年金の減額・消滅の動きを考えると、女性が、扶養に頼る時代ではなくなっている、ということになるのでしょうか。
とはいえ、いまだに女性が“自分の力で老後に備える”には、壁が多く十分に制度が追い付いていない現実があります。でも、今すこしでも知っておくこと、備えておくことは、未来の自身を守る力になるような気がします。
■個人としての年金時代
では、これからどういった対策が必要でしょうか。すでに成立した法案の内容を正しく理解し、将来に向けてプランを立てていくしかありません。
・年金の家族手当は消えていく
・個人としての年金の時代になる
それを踏まえて、こういう方は今すぐご確認を。
(2025.06)