動画配信の内容を文字起こしして、コラムにしたものです。図解などを参照する場合は、動画と合わせてご覧ください。

  

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1.毎月分配型投信のここに注意! 政府のシニア向け「プラチナNISA」の問題点

政府が先日、「シニア向けの新NISA」を新設するとして、その商品として毎月分配型投資信託を例示しました。名付けて「プラチナNISA」。まだ提言段階なので決定ではありません。

しかし、「高齢者向けになぜ?」と思われた方も結構いるでしょう。なぜなら、この推奨される商品にはいくつかの目立ったデメリットがあるからです。だから新NISAの取扱商品ではなかったのでは?

政府としてはシニア層がもつ退職金やまとまった預貯金などを「運用しながら取り崩していける」という誘い文句を使って、金融口座に入れてほしいというのが見えてきます。

それでも「毎月分配金が年金代わりに入ってくる」「孫に毎月小遣いを上げられる」──それをメリットに思う人もいるでしょう。でも、それで安心できますか?

その辺のところを確認し、よりメリットのある方法はないか、考えてみたいと思います。

 シニア層に運用は必要か?

シニア層の意見はこういうものでしょう。 

   いつまで生きられるかわからないのに、運用なんて無駄

これは逆に、いつまでも生きてしまったら「長生きリスク」となります。しかも健康ではない状態で長く生きることは、「生きる資金」がないと大変なリスクとなります。 

   リスクを冒して運用するくらいなら、貯金の方が安心 

預貯金だけではインフレリスクに対応できません。預貯金以外に個人向け国債や安定型のインデックスファンド中心に、緩やかな運用でリスクコントロールしていくことが可能です。  

 価格が下落したら、元本割れして老後資金が減る

   これについては、一定の現預金を含む分散投資で低リスク運用、そして複数年取  

   り崩しでリスクはかなり抑えられます。 

これらを踏まえると、シニア層といえども運用は必要かと思います。60代の人なら、平均的にあと20年くらいは生きる期間があるのです。「増やす」よりも「減らさない」「長持ちさせる」視点で緩やかな運用が大事となってきます。ただし、資産に十分余裕があって取り崩していくことに何ら不安がない方には、特に運用が必要とは言えないかもしれません。

 

●毎月分配型投信の問題点 

次に、「毎月分配型」がシニア層の運用にふさわしいか」、ということです。これについては、この商品の問題点はどこにあるかを知る必要があります。一般的に言われているのは次のことです。 

手数料が高めである 

分配金で元本を食いつぶす可能性がある 

分配金が再投資されず運用効率が劣る 

 税制メリットを活かしにくい 

 それでは、次からこれらの問題について、毎月分配型の仕組みも交えて調べていきましょう。 

 

問題点① 手数料が高めである 

 まず最初の問題点は手数料です。投資信託の手数料は主に3つあります。購入、運用、解約にかかるもので、それぞれ購入時手数料、信託報酬、信託財産留保額と言います。

 ここで大きく差があるのは、信託報酬です。インデックスファンドが0.1%~0.3程度に対して毎月分配型では1.0%~1.5程度とかなり高めです。また購入時手数料もインデックスファンドは多くが無料、いわゆるノーロードに対して、毎月分配型は商品によって03.5程度です。 

 特に信託報酬は一時的なものではなく、商品を保有している期間はずっとかかります。インデックスファンドとの差は1%以上あり、これが解約するまでずっとかかるというのは、かなりの差になるでしょう。 

 

問題点② 分配金で元本を食いつぶす可能性 

 次に2つ目の問題点です。これは、いわゆる「タコ足」と呼ばれる状態のことです。タコが自分の体の一部を食べてお腹の足しにしても、その分、体は小さくなっているんですね。 

まず、簡単に毎月分配型の分配金の仕組みについて説明しておきます。毎月一定額を分配金として支払う仕組みの投資信託で説明します。

分配金の中身には「普通分配金」と「特別分配金」があります。普通分配金は出た利益から分配しますが、中身は儲けですから税金がかかります。ただし、NISAなら非課税です。特別分配金というのは、分配金ではあるけれど元本の一部を取り崩して戻すものです。もともと元本、自分が出したお金が戻ってくるだけですから税金はかかりません。 

もう少し具体的に見てみましょう。

前期決算日の基準価額が10,500円です。今期中の収益が50円出たので、基準価額は10,550円になります。この商品は毎期の分配金が100円と決まっています。そうすると、今期収益の50円では足りないので、元本から50円を取り崩します。それで分配金の中身は、今期収益50円と元本50円となります。これで100円を分配すると、分配後の基準価額は10,550円-100円で10,450円となります。 

 これで見るように、100円の分配金のうち、50円は元本、いわゆるタコの自分の足です。足の分、50円が本体から削られてしまうのですね。このように、実際に収益が出ていても、元本の一部を取り崩しているのです。 

 もちろん、収益額が大きければそこから全部分配金が出ますので、元本取り崩しはありません。このように目論見書に記載されていて、購入する際に確認することになっているのですが、意外と素通りしてしまう人がいるようです。  

 

問題点③ 再投資されず運用効率が劣る 

 3つ目の問題点は運用効率です。 

 毎期ごとに、元本が膨らんでいくのと、その都度分配金が下ろされて運用していくのでは、全然違いますね。これは複利効果で期間が長いとその差は歴然と大きくなります。この理屈は分かるかと思います。 

 図は、事例として「毎月分配型で3年間のトータルリターンがトップの商品」という項目で検索したものです。特にこの商品を推奨するものではありません。 

 青線が毎月分配金を取り崩していった基準価額、赤線が分配金込みで再投資していった基準価額です。3年間でその差は441円です。これが10年、20年となるとさらに差は大きくなるでしょう。

 

「増やす」か「取り崩す」か 

 「何言ってるの? 毎月分配型は、毎月取り崩していくんだから、基準価額が増えないのは当たり前でしょ」

 ・・・そのとおりです。単純に数字の比較はできないですね。この図は取り崩さずに運用したらどれだけの運用成績になるかの運用会社のアピールといえるものです。 

あえてこれを例示したのは、「毎月お金をもらうことに大きな満足を得られるのか」、それとも、「運用終了後に収益が高いことに満足を得られるのか」の違いを見たかったのです。 

もしシニア層が「増やす」より「取り崩す」ことを重視するなら(実際その通りだと思います)、当然この青線のように「増やしていきながら取り崩して行けるよ」という謳い文句に簡単に乗ってしまいますね。 

「運用効率がどうのより、利益が出ている限りそこから分配金が出ればいいんだよ」

・・・・という捉え方もあるでしょう。そこは個人によります。ただ、この商品を選択するにしても、その特質は知っておいてほしいものです。特に手数料がけっこう高かったですよね。 

逆に、「取り崩す」より「増やす」ことを重視する、つまりそちらの満足を重視する若い世代の人は、この図の赤線の成績となるような商品を目指すべきかと思います。つまり、再投資型の商品です。 

 

問題点④ 税制メリットを活かしにくい 

 問題点の4つ目は、税制メリットについてです。政府の提言通り、NISA対応にするなら、毎月分配型はこの税制メリットが十分活かし切れない可能性があります。 

 新NISAの特徴として、「売却益や分配金に税金がかからない(本来は20.315%課税される)」ことがあります。 

その非課税のメリットを最大限活かすには「長期保有・再投資」が前提となります。でも、毎月分配型はというと

 ・毎月の分配金で非課税枠を少しずつ消費してしまう 

 ・しかもその分配金が元本の一部(特別分配金)だった場合、そもそも課税対象じゃ 

  ないから非課税の恩恵を受けない

 せっかくの新NISA枠をムダ使いしてしまう可能性が高いということになります。

  

定率取り崩し型の選択肢

 シニア層の運用の特性は確かに「取り崩し」です。取り崩しながらも資産をできるだけ長持ちさせるということです。 ただ、取り崩していくだけでは資金の減少は早まります。まして毎月分配型は運用上のデメリットがあるのはここまで見てきた通りです。シニア層の運用の基本は、「資産を長生きさせながら取り崩していく」ことです。いわゆる「緩やかな運用」はそのためです。 

 「結局、元本を取り崩していくのは、どれも同じでしょ?」

 ・・・その通り。老後は「取り崩し」のステージです。 

では、毎月分配型の欠点をカバーする取り崩し法はないものでしょうか。それが「定期取り崩し法」です。このうち、「定率取り崩し型」について説明します。 

これは、特に老後資金の計画的な取り崩しに向いている方法です。投資信託やETFなどを、毎月あらかじめ決めた割合(例えば資産に対して年4%など)で売却、取り崩していく仕組みです。残高に応じて売却は変動するので、運用状況に応じて資金寿命を伸ばせます。 

この方法のメリットは、分配金を無理に出させるのではなく、自分で自由に取り崩すタイミングを決められることです。必要な時だけ取崩し、取り崩さない部分は再投資で運用効率を保てます。仮に元本を削ることになるようなら、取崩し率を変更または解消することができます。また、利益によっては取り崩される額が変動します。これはデメリット言えるかもしれません。ただ、多く取り崩されたら、それは手元資金や預貯金として残し調整すればいいのです。 

このように一部の証券会社では「自動取り崩し設定」ができるサービスが出てきています。

 

● 「プラチナ」は「インデックス」に優るか? 

 シニア層は「守り型」の取り崩し運用に向いている、しかし、「毎月分配型」では欠点が目立つ。同じ取り崩し型なら「定率取り崩し型」でいいのではないか。というのがここまでの結論です。 

では、「定率取り崩し」にするにしろ、どんな商品で運用すればいいか、という問題が残ります。それについては、インデックスファンドを上げておきます。 

 政府の名付けた「プラチナ」と「インデックス」を比較表にしてみました。これはここまでの説明をまとめたものです。こうして見てみると、「取り崩し」でも「増やし」でもプラチナNISAにする理由が見つかりません。このことは、シニア層だけの問題ではなく、若い世代の「増やす運用」にも当てはまりそうですね。 

一つ加えておくと、それでも毎月分配型をメリットとして利用する方は一定数いるかと思います。その場合は、十分この商品の特性を理解したうえで利用してください。

 

 2025.0427

 

 

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