年金は5年先も安心ではない ~ 数字と文字だけの危機感

 5年に1度の年金財政検証がやってきました。政府は「100年先まで安全」という年金検証を前回も前々回もやったはずでした。ところが、年金財政は、その後も破綻に向かっています。

 

 今後は「マクロ経済スライド」の実施は不可欠だというが、それではなぜ制度ができた2004年から実施してこなかったのか。2009年の財政検証でも言われていたことです。特にデフレ時にはこの制度は機能しないという決めごとがあり、これまで一度も発動されていません。インフレ時にも使えない、デフレ時にも使えない、これでは話になりません。これを発動させると、現在年金を受給している世代(高齢者)の反発を買って選挙には勝てないというのが目先の利害だけを考えた政権の姑息な理由だったからです。その結果が、年金財政を苦しくし、将来はこれまで以上に年金受給額を低くさせるもととなりました。

 

 政府は所得代替率「50%」を維持することを約束してきましたが、この「50%」を守ることにこだわって、さまざまな数字の細工がされてきたのではないでしょうか。特に若い世代にとって所得代替率がこれ以上低下するのは避けてほしい状況ですが、「50%」を守るメンツのために無責任な数字を出してもらっては困ります。

 

 実際の政府の受給予想よりもはるかに受給額、所得代替率は悪くなる傾向が言われています。政府はまた、将来の物価水準、運用率に伴う所得代替率、受給額の予測を8段階にして出しています。予測などもともと無理だとしても、8パターンもあると、「さあ、どれにしますか」と机の上に出されて、国民の方が回答を迫られているようで、違和感を感じます。国がやることは決まっています。最悪とまではいかなくても、悪いパターンの可能性が何パーセントあるのか、それに備えてどういう政策をとるか、ということです。

 

 今回出てきた対策としては、前回の財政検証でも言われてきたことと何ら変わっていません。

 

1. 受給年齢を65歳から徐々に70歳に引き上げ

 

2. 保険料負担年齢を65歳まで延長

 

3. マクロ経済スライドの実施(すなわち年金受給額の引下げ)

 

 これらの指摘は今に始まったことではありません。前回でも分かっていたはずです。だんだん状況が悪くなっているにもかかわらず、「まだ大丈夫、まだ大丈夫」と言ってきたのです。

 

 将来の受給パターンの良い条件として、「女性と高齢者の就労がもっと活発になれば」と言っています。何が「・・・なれば」なのでしょう。こうなればこうなる、などというのは民間人でも言えます。民間よりも詳細で膨大なデータを持つ国の機関があまりに大ざっぱすぎるというか、やる気が感じられません。実態は5年前と何ら変わっていないのです。女性が幼い子供を抱えて本当に安心して働ける制度ができているのか、高齢者が誰でも働ける環境ができているのか。

 

 高齢者の就労については、「改正高齢法」により65歳まで雇用延長が可能となりました。しかし、定年が延長されるといっても、大部分の中小企業ではいつまでも高齢者を会社においておく余裕がありません。この「高齢法」は義務ではないので、結局60歳になれば何やかや理由付けされて会社の外に追い出され、退職金なし、仕事なし、年金なし(65歳まで)の「3無し」の現実に追いやられるわけです。

 

 「・・・・という条件であれば、年金は安心です」などと人ごとのように言う前に1つ1つの施策をきちんとやってもらいたいものです。物価上昇率、運用利回りにしても、甘い将来の見積もりが、将来の若者を苦しめるのです。「100年先まで安心」といった矢先にお尻に火がついているのに気が付かない、それが役人のやることなのです。100年どころか、5年先もどうなっているかわかりません。

(2014.06.21)

 

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