主婦が離婚の年金分割で勘違いしやすいこと

2018/11/01 

 

■30歳代の離婚件数が多い
平成20年4月以降の離婚では第3号被保険者が配偶者の年金の1/2を自動的にもらえるようになった。正社員や公務員のパートナーで所得が一定額以下の場合、保険料無しで加入できる。これを3号被保険者という(以下、3号)。つまり離婚後に元パートナーの年金を受け取れる。

この「年金分割」によって夫の定年後に離婚が増えるのではないかと言われた。あれから10年。離婚の動向を踏まえ、熟年世代に限らず特に若い世代の妻が離婚する場合、年金分割について勘違いしやすい点を説明したい。離婚後の生活プランが狂わないように参考にして頂ければと思う。

■熟年離婚は増加中。
直近の離婚件数を見ると、平成28年は21万6798組でここ数年減少気味である(婚姻件数も減少中)。一方で離婚者の年齢別構成比率を見ると、50歳以上は上昇傾向(夫22.0%、妻14.7%)にあり、60歳以上の上昇が顕著である。「年金分割」が熟年離婚を後押ししたように見える。

比率では最も多いのが30歳代で、夫・妻とも全体の30%強となっている。そして未成年の子がいる離婚が全体件数の58.1% (12万5946組)、さらに「妻が全児の親権を行う」は、そのうち84.4%(10万6314組)を占め増加傾向にある(「平成30年我が国の人口動態 平成28年までの動向」厚生労働省政策統括官資料)。

■年金分割の仕組みとは
以下、年金分割について簡単に説明しておく。本稿では説明上、妻より夫の年金額の方が多いとし、また「3号」と言う際は妻として話を進める(実際には収入関係で夫が3号の場合もある)。

年金分割制度は、「合意分割」(平成19年4月施行)と「3号分割」(平成20年4月施行)がある。「合意分割」は簡単に言うと、婚姻期間中の夫婦の厚生年金を合算し、協議によってそれを按分して分割できるというものだ。按分割合の多い方から少ない方へと年金の差額分が移される。合意されない時は裁判手続で按分割合が決まる。ただし特別な事情がない限り、だいたいは5割ずつとなるようだ。

また「3号分割」は、平成20年5月以降に妻が3号でいた期間について夫の年金が請求により自動的に1/2に分割される。3号期間がなければ「合意分割」となる。夫が失踪したり行方不明になったりした時も妻への支払対象となる。年金分割というのは正確には年金の「額」を分割するのではなく、年金の「記録」(標準報酬月額と標準賞与額)を分割して各自の年金額を計算するからで、手続き的には現金の授受はなく当事者間の不払いの心配はない。

■熟年離婚では分割年金がすぐもらえる
具体的には、65歳からもらえる夫の老齢厚生年金が月額20万円とした場合、年金の分割でほぼ1/2の10万円が3号の妻の年金額になる。熟年離婚のように婚姻期間が長くなれば、「3号分割」では1/2となるし、「合意分割」でも特別の事情がない限り1/2で合意されるからだ。これとは別に妻自身の老齢基礎年金(国民年金)がもらえる。なお、基礎年金は1階部分、厚生年金は2階部分とも呼ばれる。度々話題になる確定拠出年金、イデコは3階部分だ。

この世代はすでに自分の受給権を満たしている者もあり、申請手続き後まもなく年金がもらえる。さらに退職金や資産が財産分与で何割かもらえれば、離婚しても何とかやっていけると妻が思っても不思議はない。後述するように離婚原因(「性格不一致」がトップ)を考えると、独り立ちできると踏んだなら我慢して夫と居残る理由はない。

■若い世代における年金分割の勘違い
問題はこれとは違うケースである。注意したいのは、婚姻期間がそれほど長くない世代における3号の離婚である。仮に現在(平成30年)離婚すると「3号分割」が適用されるので、単純に夫の老齢年金の半分が離婚後にもらえると考える人もいるようだ。ここには2つの勘違いがある。

1つ目は、分割された年金が離婚後すぐもらえるという勘違い。分割年金がもらえるのは、妻自身が受給権を得る年齢(現行では65歳)からである。仮に35歳で離婚しても、熟年離婚のように直後からもらえるわけではない。つまり、30年以上も待たないと老齢年金としてもらえないのだ。
 
2つ目は、夫の最終年金見込額の半分がもらえるという勘違い。例えば現在、婚姻期間5年で離婚すると、年金の分割対象となるのはこの5年間の夫の厚生年金のみ(基礎年金は分割対象外)となる。しかし、この1/2がそのまま妻に渡るわけではない。

実際には分割年金は、婚姻期間5年の夫の平均月収をもとにして計算されるのではない。あくまでも5年間の夫の年金記録から1/2を削り、それを妻の年金記録に加え、最終的に各々の受給年齢までの年金記録と合算調整して計算し、年金額が決まる。
 
■夫の老齢年金の半分がもらえるわけではない
これはどういうことを意味するか。仮に5年間の夫の平均月収が30万円とする。単純にこの5年間だけが厚生年金加入期間だとして計算すると、65歳でもらえる厚生年金額は年間で10万円弱(月額約8,200円)である。1/2なら月に4,000円ほどでしかない。それなのに、最終的に65歳からもらえる夫の老齢厚生年金見込額が月額15万円とすると、その1/2の75,000円がすぐもらえるという勘違いである。

この金額のズレは若い時期は給料が低く、なおかつ繰り返しになるが分割されるのは年金加入の全期間でなく婚姻期間だけが対象とされるからだ。

50歳以上であれば「ねんきん定期便」で最終年金見込額が通知される。50歳未満の人は雑誌や書籍、ネットで年収別の見込概算額を知ろうとすれば知ることができる。その際に注意すべきは、その金額は受給年齢までの全加入期間の平均年収(平均標準報酬額)を前提したものなので、婚姻中の5年間のみを計算対象にしたものではないということだ。

その結果から出る差額(例えば4,000円と75,000円の差額)のもくろみ違いは、数十年分ともなれば莫大な額となる。特に未成年の子を持つ3号の妻ほど、離婚後の年金額をきちんと見据えておいてほしい。

もっとも30代であれば、妻の年金は離婚後にどれだけ勤務できるかにかかっている。勤務期間が今後増えれば、分割年金以外に妻自身の厚生年金と基礎年金が増えていくからだ。また再婚ともなれば、夫婦でまた年金を作っていくことができる。現在の制度では若年離婚者年金分割だけを過剰にあてにすべきではない。

■離婚原因のトップは「性格不一致」
最後に離婚原因に戻る。離婚申し立て動機の1位は夫、妻とも「性格が合わない」で群を抜いている。2位以下は、夫では「(妻が)暴力をふるう」、3位「(妻が)精神的に虐待する」、4位「(妻の)異性関係」、5位「(妻が)浪費する」となっている。

いっぽう、妻では2位「(夫が)生活費を渡さない」、3位「(夫が)暴力をふるう」、4位「(夫が)精神的に虐待する」、5位「(夫の)異性関係」となっている(平成28年度司法統計年報「婚姻関係事件数《渉外》―申立ての動機別申立人別 ―全家庭裁判所」)。

お金に関する問題もそれなりに重いが、お金以外の動機の方が大きい。今の配偶者が高収入で不安がないと思えても、いつ破綻が訪れるかもしれない。それは「性格」や「性」に代表されるつかみきれないものが原因だからである。元はと言えば独り立ちしていた男女2人が一緒になったのだから、不意の破綻で別々になることはありうる。

なにしろ損得だけで結ばれたわけではないから、別れるのも損得だけからではない。そういう事態に備えて、いつか独り立ちに戻ることもありうると準備しておくのも無駄ではないと思う。

TFICS       お気軽にご相談下さい

個別相談

業務依頼

ご意見・ご質問

●その他のお問合わせはこちら