1. 財産評価の方法
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「宅地の相続税評価(自用地評価・貸家建付地評価)」「宅地の相続税評価(貸家の評価)」「上場株式の相続税評価」「ゴルフ会員権」「証券投資信託受益証券の評価」
l Point
相続税額を計算するには、対象となる財産の価値を割り出す必要がある。相続財産の価額は課税時期の「時価」で評価し、課税時期とは、相続があった日(死亡日)となる。 |
相続税額を計算するためには、相続財産がどれくらいの価値があるのか、まずそれを評価しなければなりません。評価方法は、遺産の種類によって異なります。
(1) 宅地
宅地の評価方法には、路線価方式と倍率方式があります。
① 路線価方式
市街地にある宅地の評価に用いる評価方法です。その宅地が面している道路に付けられた価
額(路線価)をベースにして評価額を計算します。路線価が付けられていない地域では倍率方式で評価することになります。
路線価 × 宅地面積=路線価方式による評価額 |
② 倍率方式
その宅地の固定資産税額に一定の倍率を掛けたものが評価額となります。倍率は国税局が毎年見直しています。
固定資産税評価額 × 倍率=倍率方式による評価額 |
③ 小規模宅地等の評価減の特例
被相続人が居住用あるいは事業用としていた宅地のうち、一定面積までの部分は評価額の80%、または50%を減額します。
イ) 居住用
・特定居住用宅地 ・・・・80%減額(330㎡まで)
ロ) 事業用
・特定事業用宅地等・・・・80%減額(400㎡まで)
・不動産貸付用宅地・・・・50%減額(200㎡まで)
④ 貸家建付地
自分の土地に自分で一軒家やアパート、ビルなどを建てて他人に貸している場合、その土地のことを貸家建付地(かしやたてつけち)といいます。借家人はその敷地を間接的に利用する権利があるため自用地の評価額からこの権利に相当する価額を差し引きます。
自用地評価額×(1-借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)=評価額 |
⑤ 貸宅地
借地権が付いている宅地は、その土地の所有者からみて貸宅地となります。自分の土地であっても自由に処分できないため、自用地より評価が低くなります。
自用地評価額 × (1-借地権割合)= 評価額 |
⑥ 借地権
建物を所有するために土地を借りている権利を借地権といいます。自用地としての評価額に借地権割合を掛けて求めます。
自用地評価額 × 借地権割合=評価額 |
(2) 建物
① 家屋
固定資産税評価額に一定倍率を掛けます。現在この倍率は1.0倍です。
イ) 自用家屋
固定資産税評価額(建築価額の60%程度)
ロ) 貸家
貸家の評価額は、以下の式となります。
固定資産税評価額 × (1-借家権割合 × 賃貸割合) |
(3) 上場株式
次の4つのうち、最も低い価額を評価します。
① 課税時期(相続や贈与のあった日)の終値
② 課税時期の属する月の毎日の終値の月平均値
③ 課税時期の前月の毎日の終値の月平均値
④ 課税時期の前々月の毎日の終値の月平均値
(4) 非上場株式
評価にあたっては、相続によって株式を取得した株主が同族株式か否かで原則的評価方式(①類似業種比準方式、②純資産価額方式、③併用方式)または配当還元方式となります。原則的評価方式の場合は、さらに評価会社の規模によっても評価方式が決まります。
イ) 大会社・・・・類似業種比準方式。ただし純資産価額方式の選択も可
ロ) 中会社・・・・併用方式。ただし純資産価額方式の選択も可
ハ) 小会社・・・・純資産価額方式。ただし併用方式の選択も可
例外的な評価方式である配当還元方式は、配当金額から単純に株価を逆算する方法です。
(※ 非上場株式の評価については、第9章「事業承継設計」参照)
(5) 証券投資信託受益証券
証券投資信託受益証券は以下の算式により評価します。
課税時期の1口当たりの基準価額×口数-課税時期において解約請求等した場合に源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額-信託財産留保額および解約手数料 |
(6) 生命保険金、死亡退職金
みなし相続財産として課税される生命保険金や死亡退職金には次の非課税枠があります。保険金取得者のうち、非課税金額を控除できるのは、相続人だけとなります。
500万円 × 法定相続人の数 |
(7) 生命保険契約に関する権利
相続財産または、みなし相続財産として課税される「生命保険契約に関する権利」は、相続日に解約した場合の解約返戻金の額を評価額とします。
(8) 定期金に関する権利
① 給付事由が発生していない場合
解約返戻金相当額
② 給付事由が発生している場合(被保険者死亡等)
次のうち、最も高い価額で評価します。
イ) 解約返戻金相当額
ロ) 定期金にかえて一時金相当額
ハ) 「1年間に受けるべき金額 × 予定利率の複利年金取得率(残存期間に応ずるもの)」
2. 宅地の評価単位
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「宅地の相続税評価(自用地評価)」
l Point
土地は、登記簿上の地目と現況が異なる場合には、課税時期における現況により評価する。一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には、一団の土地ごとに評価する。 |
(1) 土地の評価上の区分
土地は、宅地・田・畑・山林・原野など地目別に評価方法が異なります。ただし、登記簿上の地目と現況が異なる場合には、課税時期における現況により評価します。
また、一体として利用されている一団の土地が、2以上の地目からなる場合には、その一団の土地は、主たる地目から成るものとしてその一団の土地ごとに評価します。
(2) 地積
地積は、課税時期における実際の面積によります。
(3) 宅地の評価単位
宅地及び宅地の上に存する建物の権利の価額は、1画地の宅地ごとに評価します。1画地の宅地とは、利用の単位となっている1区画の宅地のことです。このため、一筆の宅地が1画地であるとは限らず、二筆以上の宅地からなる1画地もあります。
贈与、遺産分割等が行われ、親族間などで宅地の分割が行われた場合には、分割により取得した宅地ごとに価額を評価します。ただし、その分割が著しく不合理であると認められる場合にはその分割前の画地を1画地の宅地として評価します。
レジュメ図の(A) (C) (D)は、二筆の宅地の利用単位が異なるため、①・②それぞれ1画地とします。(B)は、①・②の利用単位が同じため①・②合せて1画地として評価します。
3. 路線価方式の評価手順
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「宅地の相続税評価(自用地評価)」
l Point
路線価方式とは、宅地の面する路線ごとに定められた路線価を基礎として、その宅地に応じた「奥行価格補正率」や「側方路線影響加算率」などの各種の画地調整率を使って評価額を決める方法である。 |
(1) 路線価方式
路線価方式とは、宅地の面する路線ごとに定められた路線価を基礎として、その宅地の奥行距離に応じた「奥行価格補正率」や、道路付の状況により適用する「側方路線影響加算率」などの各種の画地調整率を使って評価額を決める方法です。画地調整率は、その宅地が存する地区区分(普通住宅地区など)に応じて定められています。
また、不整形地等の個別事情がある宅地については、その修正も加えます。こうして求めた価額が「自用地評価額」です。
(2) 路線価
路線価図は、各税務署に備え置かれているほか、国税庁ホームページでも閲覧することができます。路線価は、その年の公示価格の80%相当額とされています。
l 借地権割合
各路線価の右隣に表示しているA,B,C・・・・・Gの記号に対応する借地権割合を示します。
「170D」 ・・・・・・ 1㎡当たりの価額(千円単位)が170千円で、借地権割合は60%であることを示している。
記号 |
A |
B |
C |
D |
E |
F |
G |
借地権割合 |
90% |
80% |
70% |
60% |
50% |
40% |
30 |
(3) 奥行距離に応じた路線価の修正(「奥行価格補正率」)
奥行距離(路線からの距離)に着目し、その地域(普通住宅地区等)における標準的な宅地の奥行距離の比べ長い場合や短い場合には、その宅地の路線価は補正(減額)されます。その補正割合を「奥行価格補正率」といいます。
(4) 角地の評価(「奥行価格補正率」及び「側方路線影響加算率」)
正面と側方に路線がある角地の路線価は、正面路線価を基礎とし、もう一方の路線価(側方路線価)に「奥行価格補正率」及び「側方路線影響加算率」を乗じた金額を加算した額とします。
正面路線価は、奥行価格補正後の路線価が高いほうの路線価をいいます。
(5) 正面と裏面に路線がある宅地(「奥行価格補正率」及び「二方路線影響加算率」)
正面と裏面に路線がある宅地の路線価は、正面路線価を基礎とし、もう一方の路線価(裏面路線価)に「奥行価格補正率」及び「二方路線影響加算率」を乗じた金額を加算した額とします。
(6) 不整形な宅地等(「不正形地補正率」「間口狭小補正率」「奥行長大補正率」「がけ地補正率」)
不正形な宅地や間口が狭小な宅地、奥行が長大な宅地、がけ地を含む宅地などは、それぞれ「不正形地補正率」「間口狭小補正率」「奥行長大補正率」「がけ地補正率」を適用して評価します。
(7) 私道
私道は、次の2つに区分してそれぞれ評価します。
① 不特定多数の者の通行の用に供されている私道は評価しません(評価ゼロ)。
② 特定の者の通行の用に供されている私道は、自用地としての評価額の100分の30相当額により評価します。
4. 路線価方式評価の具体例 ①
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「宅地の相続税評価(自用地評価)」
l Point
「一方が道路に面する宅地」、「正面と側面が道路に面する宅地」の評価を求める。 |
(A) 一方が道路に面する宅地(普通商業・併用住宅地区)の評価額
レジュメの宅地(A)は、一方が道路に面する宅地で、その評価額は次の式で計算します。
正面路線価 × 奥行価格評価率 × 地積 |
【事例】
① 地積 : 600㎡ ② 正面路線価 : 100千円 ③ 奥行価格補正率 : 1.00(普通商業・併用住宅で奥行距離30m) ④ 1㎡当たりの価額 : 100千円×1.00=100千円 ⑤ 評価額 : 100千円×600㎡=60,000千円 |
(B) 正面と側面が道路に面する宅地(普通商業・併用住宅地区)の評価額
宅地(B)は、正面と側面の二方が道路に面する宅地で、その評価額は次の式で計算します。
{(正面路線価×奥行価格評価率)+(側方路線価×奥行価格評価率×側方路線影響加算率)}×地積 |
【事例】
① 地積 : 600㎡ ② 正面路線価 : 100千円 ③ 奥行価格補正率 : 1.00(普通商業・併用住宅地区で奥行距離30m) ④ 1㎡当たりの価額 : 100千円×1.00=100千円 ⑤ 側方路線価 : 80千円 ⑥ 側方路線影響加算率 : 0.08(普通商業・併用住宅地区) ⑦ 側方路線影響加算 : 80千円×1.0×0.08=6.4千円 ⑧ 評価額 : (100千円+6.4千円)×600㎡=63,840千円 |
5. 路線価方式評価の具体例 ②
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「宅地の相続税評価(自用地評価)」
l Point
「正面と裏面が道路に面する宅地」の評価を求める。 |
(C) 正面と裏面が道路に面する宅地(普通商業・併用住宅地区)の評価額
レジュメの宅地(C)は、正面と裏面の二方が道路に面する宅地で、その評価額は次の式で計算します。
{(正面路線価×奥行価格評価率)+(裏面路線価×奥行価格評価率×二方路線影響加算率)}×地積 |
【事例】
① 地積 : 600㎡ ② 正面路線価 : 120千円 ③ 奥行価格補正率 : 1.00(普通商業・併用住宅地区で奥行距離30m) ④ 1㎡当たりの価額 : 120千円×1.00=120千円 ⑤ 裏面路線価 : 100千円 ⑥ 二方路線影響加算率 : 0.05 ⑦ 二方路線影響加算 : 100千円×1.0×0.05= 5千円 ⑧ 評価額 : (120千円+5千円)×600㎡=75,000千円 |
6.路線価方式評価の具体例 ③
(2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「宅地の相続税評価(自用地評価)」
l Point
「三方が道路に面する宅地」の評価を求める。 |
(D) 三方が道路に面する宅地(普通商業・併用住宅地区)の評価額
レジュメの宅地(D)は、正面と側面及び裏面の三方が道路に面する宅地の評価は次の式で計算します。
{(正面路線価×奥行価格評価率)+(側方路線価×奥行価格評価率×側方路線影響加算率)+(裏面路線価×奥行価格評価率×二方路線影響加算率)}×地積 |
【事例】
① 地積 : 600㎡ ② 正面路線価 : 120千円 ③ 奥行価格補正率 : 1.00(普通商業・併用住宅地区で奥行距離30m) ④ 1㎡当たりの価額 : 120千円×1.00=120千円 ⑤ 側方路線価 : 80千円 ⑥ 側方路線影響加算 : 80千円×0.08=6.4千円 ⑦ 裏面路線価 : 100千円 ⑧ 二方路線影響加算率 : 0.05 ⑨ 二方路線影響加算 : 100千円×1.0×0.05=5千円 ⑩ 評価額 : (120千円+6.4千円+5千円)×600㎡=78,840千円 |
7. 貸家建付地の評価
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「宅地の相続税評価(自用地評価・貸家建付地評価)」
l Point
「貸家建付地」の評価を求める。 |
l 貸家建付地の評価額
貸家の敷地(土地所有者が建物を建築し、その建物を賃貸の用に供している状態にある敷地)を「貸家建付地」といいます。貸家建付地の評価額は、次の式で計算します。
貸家建付地の評価額 =自用地評価額 -(自用地評価×借地権割合×借家権割合×賃貸割合※) =自用地評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合※)
※賃貸割合 = (A)のうち課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計÷ 当該家屋の各独立部分の床面積の合計(A) |
【事例】
テナントビル(普通商業・併用住宅地区)。独立部分の床面積合計1000㎡(全室賃貸の用)。借地権割合70%、借家権割合30%のアパート。
① 地積 : 600㎡ ② 正面路線価 : 120千円 ③ 奥行価格補正率 : 1.00(普通商業・併用住宅地区で奥行距離30m) ④ 1㎡当たりの価額 : 120千円×1.00=120千円 ⑤ 自用地評価額 : 120千円×600㎡=72,000千円 ⑥ 貸家建付地 : 72,000千円×(1-0.7 × 0.3 ×1000㎡/1000㎡)=56,880千円
|
8. 借地権及び貸宅地の評価額
l Point
「借地権及び貸宅地」の評価を求める。 |
l 借地権及び貸宅地の評価額
借地権の設定に際して、その設定の対価として通常権利金等を支払うなど借地権の取引慣行があると認められる地域においては、その借地権及びその権利の目的となっている土地(いわゆる「底地」「貸宅地」)の評価額は、次の式で計算します1。
借地権の評価額=自用地評価額 ×借地権割合 貸宅地の評価額=自用地評価額 ×(1-借地権割合) |
【事例】
普通商業・併用住宅地区の宅地。借地権割合70%。
① 地積 : 600㎡ ② 正面路線価 : 120千円 ③ 奥行価格補正率 : 1.00(普通商業・併用住宅地区で奥行距離30m) ④ 1㎡当たりの価額 : 120千円×1.00=120千円 ⑤ 自用地評価額 : 120千円×600㎡=72,000千円 ⑥ 借地権の評価額 : 72,000千円×0.7=50,400千円 ⑦ 貸宅地の評価額 : 72,000千円×(1-0.7)=27,000千円 |