1. 贈与税の基礎控除・配偶者控除
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「贈与税の配偶者控除」
l Point
贈与税の「基礎控除」は、課税価格から110万円を控除することができ、「配偶者控除」は、夫婦間で居住用不動産の贈与があった場合に、2000万円までは贈与税がかからない特例である。 |
贈与税には、課税価格から控除されるものとして「基礎控除」と、一定要件のもとに配偶者から居住用不動産または購入資金を贈与された場合に控除される「配偶者控除」があります。
(1) 基礎控除
課税価格から控除される贈与税の基礎控除は110万円です。贈与を受けた者(受贈者)が、1月1日から12月31日(暦年)の1年間に贈与された財産の価額を合計し、非課税財産の額を差し引き課税価格を出します。次に課税価格から110万円(基礎控除)を控除することができます。贈与税の申告書は必要ありません。
(2) 原則的な贈与税の計算(暦年贈与課税)
課税価格から110万円(基礎控除)を控除し、控除額を超えた部分について税率を適用して贈与税を算出します。
【計算】
平成25年中に、A(22歳)は祖父から現金500万円を受贈した。贈与税額はいくらか。
課税価格・・・・・・・・・・・・・・・500万円 基礎控除額・・・・・・・・・・・・・110万円 基礎控除後の課税価格・・・・500万円-110万円=390万円 贈与税額・・・・・・・・・・・・・・・・390万円×15%-10万円=48万5千円(*) (*)章末「贈与税の速算表」(特例贈与財産)より |
(3) 配偶者控除
① 贈与税の配偶者控除
夫婦間で居住用不動産の贈与があった場合に、2000万円までは贈与税がかからない特例です。基礎控除110万円と合わせると2110万円まで非課税となります。
贈与にあたっては、次の4パターンがあります。
金銭の贈与
土地のみの贈与
建物のみの贈与
土地・建物の贈与
② 贈与税の配偶者控除の適用要件
イ) 婚姻期間が20年以上(婚姻の届出をした日から贈与の日までの期間が20年以上。
ロ) 配偶者自身の居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与であること。
ハ) 贈与を受けた配偶者自身が翌年の3月15日までに居住し始めて、その後も引き続き居住し続ける見込みがあること。
ニ) 同じ夫婦間では一生に1回のみの適用。
ホ) この特例を受けた結果、贈与税がゼロとなる場合でも、贈与税の申告書の提出が必要。
なお、贈与税の配偶者控除の適用を受けた財産は、相続開始前3年以内の贈与加算については生前贈与加算の対象外となります。
【計算】
夫から妻へ居住用土地と建物2500万円部分の贈与があった場合の贈与税額はいくらか。
贈与税額=(2500万円-2000万円-110万円)×20%-25万円(*) =53万円 (*)章末「贈与税額速算表」(一般贈与財産)より |
2. 贈与税計算の仕組み
l Point
贈与税の計算は、①贈与財産の課税価格、②控除後の課税価格、③贈与税の納付税額、の3つのSTEPを経て計算する。 |
贈与税の計算の全体イメージは、
①贈与財産の課税価格
②控除後の課税価格
③贈与税の納付税額
の3つのSTEPを経て計算します。
(1) 贈与税計算の全体
贈与税の計算式は、次の通りです。
(贈与財産の課税価格-基礎控除額-配偶者控除額)× 税率-外国税額控除 |
(2) 贈与税計算の各STEP
贈与税計算は、3つのSTEPからなります。
【STEP-1】
贈与財産の課税価格を求める
贈与財産の課税価格=本来の贈与財産+みなし相続財産-非課税財産 |
【STEP-2】
控除後の課税価格を求める
控除後の課税価格=贈与財産の課税価格【STEP-1】-基礎控除額-配偶者控除額 |
【STEP-3】
贈与税の納付税額を求める
贈与税の納付税額=控除後の課税価格【STEP-2】×税率-外国税額控除額 |
次節から、【STEP-1】から【STEP-3】の計算過程を説明していきます。
3. 贈与財産の課税価格 【STEP-1】
l Point
贈与税計算の最初のSTEPは、「贈与財産の課税価格」の計算。贈与財産の課税価格は「本来の贈与財産+みなし相続財産-非課税財産」の算式で計算される。 |
贈与財産の課税価格 【STEP-1】
贈与財産の課税価格=本来の贈与財産+みなし相続財産-非課税財産 |
(1) 本来の贈与財産
本来の贈与財産とは、一般の贈与によって取得した財産です。
(2) みなし贈与財産
みなし贈与による財産です。(詳細は6章「贈与税の仕組み」の4「みなし贈与財産」参照)
信託財産
生命保険金
定期金
低額譲受
債務免除等
利益享受
(3) 非課税財産
贈与による財産の取得であっても贈与税を課さないものです。(詳細は6章「贈与税の仕組み」の5「贈与税の非課税財産」参照)
法人から個人
被扶養者への生活費・教育費
公職選挙候補
特別障害者扶養信託契約の信託受益権
香典・祝物・見舞金等
相続開始年に被相続人からの贈与
4. 課税価格の計算【STEP-2】
l Point
贈与税計算の第2ステップは、「控除後の課税価格」。控除後の課税価格は、「贈与財産の課税価格【STEP-1】-基礎控除額-配偶者控除額」の算式で計算される。 |
課税価格の計算 【STEP-2】
控除後の課税価格=贈与財産の課税価格【STEP-1】-基礎控除額-配偶者控除額 |
(1) 贈与財産の課税価格
【STEP-1】で求められたものです。
(2) 基礎控除額
上記(1) の課税価格から控除されるもので、控除額は110万円です。(詳細は本章1「贈与税の基礎控除・配偶者控除」参照)
(3) 配偶者控除額
一定要件のもとに、配偶者から居住用不動産または購入資金を贈与された場合に控除されるものです。(詳細は本章1「贈与税の基礎控除・配偶者控除」参照)
5. 贈与税の納付税額【STEP-3】
l Point
贈与税計算の第3 STEPは、「贈与税の納付税額」。贈与税の納付税額は、「控除後の課税価格【STEP-2】×税率-外国税額控除額」の算式で計算される。 |
贈与税の納付税額【STEP-3】
贈与税の納付税額=控除後の課税価格【STEP-2】 × 税率-外国税額控除額 |
(1) 控除後の課税価格
【STEP-2】で求められたものです。
(2) 税率
控除後の課税価格に贈与税率を掛けます。(章末「贈与税の税額速算表」参照)
・贈与税の特例税率・・・・20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた財産(特例贈与財産)に
係る税率
・贈与税の一般税率・・・・上記以外の財産(一般贈与財産)に係る税率
(3) 外国税額控除(在外財産に対する贈与税額の控除)
国外所在の財産を贈与により取得した場合において、その財産についてその国の贈与税に相当する税が課税されたときには、その国において課税された贈与税相当額として次の金額を控除することができます。
下記イ)、ロ)のいずれか少ない金額
イ) 外国で課税された贈与税相当額
ロ) その者の贈与税額 ×(国外財産の価格 ÷ その年分の贈与税の課税価格)
6. 暦年贈与と相続時精算課税
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「贈与税の計算(相続時精算課税制度の特例)」
l Point
相続時精算課税制度とは、贈与時の贈与税の負担を軽減し、財産の早期移転を促すもので、相続時に税額を精算する制度である。この制度では、2500万円までなら贈与時に課税されない。暦年贈与制度とは選択適用となる。 |
贈与税の負担を大幅に軽減し、財産の早期移転を促す制度が相続時精算課税制度で、相続時に税額を精算する仕組みとなっています。暦年贈与制度と相続時精算課税制度は、選択適用となります。両制度の比較は、以下のとおりです。
(1) 暦年課税制度
年間110万円までの贈与であれば課税されません。暦年課税の基礎控除額の110万円を超える部分は、10~50%の税率で課税されます。基礎控除額以下の贈与は申告が必要ありません。
(2) 相続時精算課税制度
相続時精算課税制度では、2500万円まで非課税で贈与できます。ただし、贈与時に非課税であっても、相続時には精算して相続税の課税対象となりますので、課税の繰り延べとなります。2500万円を超えた贈与額は一律20%の税率の課税となります。
相続時精算課税制度は一度選択すると、この規定の適用を受ける親子間では、暦年課税贈与制度に戻ることはできません。
贈与財産の種類、金額、贈与回数の制限はありません。
(3) 制度の適用要件
① 非課税枠
累積で2500万円までの贈与については贈与時に課税されません。
② 贈与者・受贈者
60歳以上の親から20歳以上の子、孫(養子または代襲相続人を含む)への贈与。一定の住宅取得等資金の贈与を受ける場合は、贈与者の年齢制限はありません。
③ 税率
2500万円を超える分については一律20%の課税。
④ 選択の届出
贈与額に関わらず、贈与税の申告書への記載が必要。
⑤ 相続時
贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算します。生前に贈与財産について贈与税を支払っていれば、相続税からその贈与税を控除します。相続税額を超える贈与税額があるときには還付されます。
⑥ 相続財産への加算
暦年課税の場合は、相続開始前3年以内に受けた贈与財産のみ相続財産へ加算しますが、相続時精算課税制度を利用した贈与財産はすべて相続財産へ加算します。
7. 相続時精算課税の計算の仕組み
(2015-11,2015-06,2014-11,2014-06,2013-11,2013-06) 出題「贈与税の計算(相続時精算課税制度の特例)」
l Point
相続時精算課税制度では、生前2500万円までなら贈与時に課税されず、2500万円を超えた贈与に対して一律20%が課税される。相続発生時には、相続財産をもとに相続税を計算し、生前に支払った税金を相続税から控除し精算する。 |
相続時精算課税制度の計算の仕組みについて事例で具体的に見ていきます(レジュメの図参照)。
(1) 1回目の贈与
1500万円を親から子へ贈与します。2500万円以下ですから、これについては贈与時に贈与
税額はかかりません。
(2) 2回目の贈与
2回目に1500万円を親から子へ贈与します。1回目と合わせて合計3000万円の贈与となります。非課税枠は2500万円なので、2回目の1000万円までの分(1回目 1500万円+2回目 1000万円=2500万円)には贈与税がかかりません。
残りの500万円は非課税枠2500万円の超過分であるため、20%の課税となり、100万円(500万円×20%)の税金をこの年に納めます。
(3) 相続発生時
相続人の相続財産は1億円とします。この中には、相続時精算課税による生前贈与財産3000万円が含まれます。相続税の基礎控除額は法定相続人を妻1人とすると、3600万円(=3000万円+600万円×1人)で、課税遺産総額は6400万円(1億円-3600万円)となります。6400万円に税率を掛けて、相続税額を算出します(「相続税額速算表」より)。
6400万円×30%-700万円=1220万円 |
相続人の相続税額は1220万円です。しかし、生前に2500万円を超える贈与500万円に対して100万円の贈与税を納めています。この分を相続税額から差し引きますので、納付額は1120万円(1220万円-100万円)となります。
8. 贈与税の申告・納付
l Point
贈与税は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与を受けた者の住所地の税務署長に提出。贈与税の納付は金銭一括納付が原則であるが、一定の要件を満たせば、5年以内の延納も認められているが、物納はできない。 |
(1) 申告書の提出義務者
贈与税は、贈与により取得した財産の価格の合計額が基礎控除額を超える場合、または贈与により取得した財産について相続時精算課税の適用を受ける場合、その財産を取得した者が申告書を提出します。
(2) 申告書の提出期限
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与を受けた人(受贈者)の住所地の税務署長に提出します。
(3) 贈与税の納付
贈与税の納付は金銭一括納付が原則ですが、一定の要件を満たせば5年以内の延納も認められています。贈与税には物納はありません。
(4) 延納の要件等
① 納付すべき贈与税額が10万円を超えること。
② 納期限までに金銭で納付することが困難な事由があること。
③ 納付を困難とする金額を限度として延納すること。
④ 担保を提供すること(延納税額が50万円未満で、かつ延納期間が3年以下の場合は不要)。
⑤ 延納期間は5年間。