年金改正でも 「在職老齢+繰下げ」で年金がこんなに減る?思いがけない落とし穴

前回に続き年金改正案のうち、今回は在職老齢年金を取り上げます。以前にもこのテーマは配信しました。中には、どうせ年金が削られるなら、繰下げすればいい、という方もいらっしゃるかと思います。でも、そこには思いのほかに落とし穴が・・・。それは後半で。これから年金をもらう人、近い将来年金をもらう世代の人にとって、今後どんな働き方ができるか。簡単な事例も入れて、一緒に見ていきましょう。

  

在職老齢年金の仕組み

 ではさっそく、在職老齢年金の基本をざっと見てみます。すでにご存じの方は、この画面はとばして結構です。

図をご覧ください。

 最初に「基本月額と総報酬月額相当額との合計が62万円以下」とあります。これは、改正前は51万円です。

「基本月額」とは老齢厚生年金の1カ月分です。「総報酬月額相当額」というのは、賞与も含めた1年間の給与を12で割った金額。だいたい「月収+賞与」の平均と考えていいでしょう。

 この1カ月分の「賃金収入」と1カ月分の「厚生年金」が62万円以下なら年金は減額されずに満額支給となります。基礎年金は対象になりません。

 次に、62万円を超える場合は一部または全部が支給停止されます。

 停止額は、下の赤枠内の式に従って決まります。簡単に言うと、1カ月の「賃金+年金」が62万円を超えると、その超えた分の1/2が年金受給額から引かれます。

  

年金受給停止のイメージ

 これは、改正される在職老齢年金のイメージです(厚労省)。

 賃金月45万円、厚生年金の受給額が月10万円を前提としています。

 上の段が改正前です。

 下の段が改正後です。

 年金の停止基準が51万円(2025年)から62万円に引き上げられました。「賃金+年金」が55万円では、62万円以下なので、年金が削られることなく、全額もらえます。 このほか、基礎年金は停止の対象外ですから全額もらえます。

 この制度改正により、高齢者の働き控えを緩和して、人手不足の解消につなげたいというもくろみがうかがえます。これで20万人 が老齢厚生年金が満額もらえるようになり、その分、停止対象となるはずだった1600億円が支給分にまわる見込みだとのことです。

 

年金停止は90%の人が対象外?

 この改正で、今後どういう働き方が望めそうでしょうか。と考える前に、この例で「賃金+年金」の合計が55万円、これに基礎年金の額を足すと月額60万円を超えます。この人たちは、かなり金銭的には恵まれているのではないでしょうか。

 同じ厚労省の2022年度末の資料では、

#基礎年金を除く「賃金+年金」の額で最も多い層は、22万円~28万円です。当然この人たちは改正前も後も停止基準に引っ掛かりません。

#65歳以降も働く年金受給者はおよそ308万人です。今度の改正で年金停止にならない人はどれくらいだと思いますか? 278万人、約90%の人が在職老齢年金に直接関係ないのです。

「なんだ、それじゃほとんどの人が年金減らされないんだ」…そう思われますよね。

 

60代後半の働き方のパターン

 ほとんどの人が年金停止に関わりないとはいえ、実際にはどのような働き方をしているでしょうか。

 内閣府のデータによると、60代後半の人で

   「働かない」と答えた人は29%です。

その他の働き方は図のとおりです。

 年金額が減らないよう 時間を調整して会社等で働く ・・・ 31.9

 年金額が減るかどうかにかかわらず会社等で働く ・・・ 17.2

  会社等で働かず、自営業主・自由業等として働く ・・・9.7

 厚生年金加入なし・ その他・無回答・・・12.2

こうしてみると、年金をもらいながら働く人は、②と③合わせて60代後半全体の約半数です。この数字はかなり重要ですね。

 比較的賃金がいい人も、やはり年金は少しだって削られたくないというのが心情でしょう。また、将来余裕ある収入計画を立てたい人も、年金を削られたくないはずです。そういう意味では、この在職老齢年金そのものを廃止されるという案も出ています。

  このように見ると、60代後半の人の働き方が見えてきそうです。そこで、次から2つの事例で見ていきたいと思います。

 

事例65歳以降も働きながら年金をもらう

これは基本パターンです。

 65歳以降の「賃金+年金」を 50万円+20万円の70万円とすると、

  • 70万円 - 62万円(改正停止基準) = 8万円が基準超過分となります。
  • 超過分の1/2が減額で4万円が年金から減額となります。
  • 本来の年金20万円から減額分4万円を差し引くと、もらえる年金は16万円です。

·賃金50万円+年金16万円=66万円 となります。これに基礎年金が加わりますが、月額4万円、年額48万円引かれる、これは大きいですよね。

 

事例①のイメージがこちらです。

厚生年金20万円なら、給与を42万円以下に抑えるという働き方もあります。でも、一方で「年金が削られないように、繰下げして増額された年金をもらった方が得かも」 …という考え方が出てきますね。次はその考え方から事例を見てみます。

 

事例② 繰下げ中に年金もらわなくても「みなし停止」

65歳以降も働き、70歳まで年金を繰下げ70歳からは働かない

 この事例②と次の事例③は、非常に複雑なので、結果的にもらえる年金額がいくらになるかを確認していただければいいと思います。その課程で、どこが「落とし穴」かわかればいいでしょう。

 ・65歳〜70歳:賃金50万円、年金20万円は繰下げで受給しない

この場合、在職老齢年金の「支給停止調整」が適用されます。これは、繰下げ中で年金をもらっていなくても、65歳から受給権が発生しているので、この時点の年金額を在職老齢年金の支給停止基準に掛けるということです。

ここで、停止とみなす年金額(在職支給停止相当額)は4万円です。この計算過程は事例①と同じです。

 ・70歳以降:年金受給開始で働かない

70歳以降は繰下げで年金が増額されます。

#繰下げ増額率=5年で+42%

繰下げ後の年金額=みなし停止後の16万円×1.4222.72万円

#あてにしていた年金額との差は年額でマイナス約68万円です。これが10年ともなるとこの10倍、大きいですよね。

ここで、「おや?」と思われた方がいたかと思います。

「65歳から70歳まで年金をもらっていないので、なぜ「支給停止になるの?」…その疑問は当然ですね。それは、在職老齢の年金停止逃れのために繰下げを使うことを防ぐためです。

 

こちらは事例②のイメージです。

  なお、年金を70歳まで繰り下げて、70歳以降も働く場合も事例②と同様の計算となります。

65歳から「みなし停止額」

②繰下げ増額率の対象となる分

繰下げした増額分

70歳以降の年金カット額

 

知らないとはまる「落とし穴」

こうしてみると、知らないと2つの「落とし穴」があります。

1つは、繰下げで年金が増えると思っても、在職老齢年金の支給停止調整で減った後の金額がベースになる!
 2つ目給与が高い人ほど「繰下げで得られる増額分」が減ってしまうので要注意!
 結局、「年金の停止は避けられなくても、自分に合ったバランスで働くことを選ぶのがだいじ、ということになりそうです。

 

■まとめ

試算では、税金と社会保険料を加味した金額を出すのは、複雑になるので省略しています。個別の金額はFPなど専門家にご相談ください。これからの働き方のヒントになれたらよかったと思います。改正の在職老齢年金は2026年4月から施行されるもようです。

(2025.06)

 

 

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