動画配信の内容を文字起こしして、コラムにしたものです。図解などを参照する場合は、動画と合わせてご覧ください。 

 

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3.親のNISAを相続  心理的な二重課税の落とし穴とは

 相続税だけでは終わらない-1

 「心理的な二重課税」とは、どういうことか説明します。

 NISAの証券に利益が出て売却した場合・・・・これは非課税ですね。それがNISAの大きな特徴です。

NISAの証券の保有者が死亡した場合・・・・これは相続税が課税されます。

  NISAの証券を相続したのち、その証券に利益が出て売却した場合・・・・これは所得税・住民税が課税されます。

 見たように、②で相続税、③で所得税などがかかります。実際の税制上は厳密に二重課税ではありません。でも、相続とその後の売却で二段階で税がかかるため、実感としては二重に税金取られる感覚になるんですね。

 

相続税だけでは終わらない-2

 相続が起こると、この時の時価が遺産額となり、これに対して相続税がかかります。その後、相続人がこれを売却すると、相続時の時価を取得価額として値上がり益分に所得税・住民税がかかります。この間、配当や分配があればそれにも課税されます。

 同じ証券に、これもあれもと税金がかかるので、二重課税では? と思えてきてしまいます。もちろん、制度上は何ら矛盾はないんですけどね。

 

NISA口座で相続がある事例

 具体的な例で見ていきましょう。

Aさんに相続が発生。遺産総額は8000万円です。そのうちNISA口座に2000万円あります。 遺産の法定相続分は

・配偶者 4000万円

・長男  2000万円

・次男   2000万円

 このうち長男はNISA口座にある証券2000万円を丸ごと相続することにします。この証券の取得価額は相続時点となりますから、2000万円です。

 「この株は、持っていればまだ上がるぞ」というもくろみです。「それに、NISAに引き続き置いておけば、利益が出ても非課税だし~

 さて、ここで少し危うい事態が起こりそうです。そこには誤解が2つあります。お分かりですか? 具体的に見ていきましょう。

 

心理的な二重課税の負担感

 では、Aさんの遺族に掛かる税金について見てみましょう。

 ❶は証券を相続した時点です。

相続人は配偶者と子ども2人なので、

・基礎控除は、「3,000万円 + 600万円 × 3= 4,800万円」

・課税対象は、「遺産総額8,000万円 基礎控除4,800万円 =

3,200万円」

相続税を計算すると

配偶者は、配偶者控除が適用され0円

長男は87.5万円

次男も同額の87.5万円

 ❷は相続した証券を売却した時点です。

もし、この証券が相続後に5%値上がりすると

   ・2,000万円 × 5= 100万円の利益です。

  所得税・住民税は、100万円×20.315%=20.315万円となります。もし10%も上昇したら、約40万円の税金です。

 「え? 相続税をちゃんと払ったら、それで終わりじゃないの? 」・・・そうです。仮に相続したあとに証券を売却すると、相続税87.5万円のほかに、5%値上がりで約20万円も所得税がかかるのです。

 「相続したものをすぐ売ったりなんかしないよ」と言われるかもしれませんが、納税資金のために売却することもあります。さらに言うと、証券売却までに配当や分配があるとそれにも税金がかかります。

 このように続けて税金がかかってくると、心理的には「二重課税じゃないの?」と思えますよね。制度上は矛盾がなくても、実際に税金を払う個人にしてみればけっこう負担ですね。

 

相続人に起こりうる誤解 

改めて先ほどの長男の誤解を解いていきましょう。長男の思惑はこうです。

「NISAに引き続き置いておけば、利益が出ても非課税だ」

ここに、2つの誤解が含まれています。

 1つ目は、前段の「NISAに引き続き置いておけば」というところです。証券保有者に相続が発生すると、NISA口座は直ちに閉鎖されます。被相続人の非課税措置はその時点で終了です。

 仮に相続人である長男が同じ金融機関にNISA口座を持っていたとしても、そのまま長男のNISAに引き継ぐことはできません。つまりNISAにそのまま置いておくことも、「NISAからNISAへ」移すこともできないのです。

 2つ目は、後段の「利益が出ても非課税だ」というところです。相続があった時点でNISA口座は終了し、課税扱いの証券になります。相続人が決まれば一般口座や特定口座などに移されますが、その間、証券が値上がりしていると、その値上がり益は課税対象になります。利益が出ることはうれしいのですが、非課税にはなりません。

 付け加えになりますが、NISAなら非課税」という認識が無条件にあると、「うっかりの勘違い」もあります。NISAの証券なら、相続があっても相続税もかからない、というものです。所得税と相続税は税体系が違いますから、別々にかかります。これは、すでに説明した通りです。

 

●相続直後の手続きは早めに

 相続した証券は、売却するにしろ、運用するにしろ移管手続きは早い方がいいでしょう。相続人の口座に移管されないと、自由にコントロールできないからです。

 1つには現金化の問題です。例えば納税資金があります。手元資金で足りなければ売却して現金化しなければなりません。また、生活資金の補充のためにも現金が必要なことがあります。これは所得税がかかろうが大切な処置ですね。

 2つには運用の問題です。当面現金が必要でない場合は、そのまま課税口座に置いておくこともできます。ただ、もし自身がNISA口座を開設しているなら、いったん売却して換金し、そのお金を改めてNISAに入れるという方法があります。もちろん売却時点で課税されますが、値上がり益が大きくならないうちなら税金も安くできます。

その後の運用益は非課税となります。ただし、NISAでは預入額に上限がありますからその範囲内となります。それに売却後に新NISAに入れ直すわけで、そこでまた日数がかかります。

 

相続人への移管手続き

 では、移管する手続きにはどんな手順があるか、ざっと見てみましょう。実際に必要な時は、口座のある金融機関に確認してくださいね。

1.  金融機関に連絡

→非課税口座開設者死亡届出書の提出、残高証明書の請求

 「非課税口座開設者死亡届出書」は金融機関でもらえますので、これに記入して提出します。

2. 金融機関で被相続人のNISA口座を閉鎖します。

3.相続人を確定します。遺産分割協議書などを提出する場合があります。

4. 移管手続き。相続上場株式等移管依頼書等を提出します。

5.相続人の課税口座(一般口座又は特定口座)に移管されます。

→同じ金融機関に口座がない場合は事前に開設が必要となります。

ここまで12カ月かかります。移管する間に相場の変動リスクは当然あります。特に注意すべきは、3の相続人の確定です。すんなり「遺産分割協議」がまとまればいいですが、ここでもめると相続税申告まで数カ月もそのままになる可能性があります。その間、証券はほったらかしになります。

 

NISA相続での注意ポイント

 ここで、少しややこしくなってきましたので、ちょっと整理してみますね。

1.   「遺産分割がまとまらないと手続きが止まる」
→ NISA
口座の資産も遺産分割協議がまとまるまでは移管手続きができません。そうすると、数カ月から申告までの最大10カ月もの間、価格変動リスクにさらされることになります。

だからNISAの相続は、遺産分割対策そのものがカギとなるのです。

2.  NISAが非課税なのは故人の生前中のみ」

 被相続人が死亡した時点でその証券は相続財産として評価され、売却しようがしまいが相続税は課税されます。
 その後、相続人の課税口座に移管されてから売却すると、その間に出た利益には所得税・住民税が課税されます。

     以上がここまでのポイントとなります。

  

●NISAの相続にかかる対策

 こうしてみると、相続対策として、早め早めに手を打っておいた方がいいようですね。

 対策は 短期的にできることとして

早めに遺産分割、証券移管手続きをして、価格変動リスクを減らす。

 ・納税資金確保のための売却は慎重にする。

 対策は 中長期的にできることとして

 ・被相続人となる人が元気なうちにNISA口座を整理する。

 ・高齢になったらNISA残高を徐々に取り崩す。

 ・生前贈与で非課税の範囲内で家族のNISA枠に分散しておく。
 ・遺言書でスムーズに遺産分割できるようにしておく。

 加えて、繰り返しになりますが、相続した証券は早めにNISA枠に入れ直して運用すること、でしたね。ただし、NISA枠の範囲内となります。

 ここまで見てきて、NISAを相続すると、二重に課税されるなんて」・・・そんな心理的負担やお金の負担を避けるためにも、仕組みを知っておくと安心して対処できますね。

 

●まとめ

 NISA口座の証券は、相続後いかに早く対策するか、それが大事ということを見てきました。結局、証券の保有者が亡くなっても、証券そのものは生きているので、値動きに注意が必要になりますね。今回のまとめは、

NISAの証券は直接相続人のNISAに移せない

・売却すると相続税のほか所得税などがかかる

・移管手続きが遅れると課税リスクもあるので早めに

・相続・遺言対策、家族のNISA活用も検討を

  以上です。

2025.05

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