「給付付き税額控除」って シニア世代にどんなメリットある?

 

 

なぜ「給付付き税額控除」が注目されているか

まず最初に「給付付き税額控除」とは、どういうものか。

「給付付き税額控除」は、税金を払っていない人にも現金で支援が届く仕組みです。それから

税金を減らす控除給付を組み合わせた、いわば新しい再分配の形といえるものです。
これまでの税額控除は「払う税金がある人」しか対象にならなかったんですね。しかし、税金を計算して控除しても引ききれない分は、「現金で支給」するもので、「払う税金がない人」にも恩恵が出てきます。

 

「給付付き税額控除」って、どういう仕組み?

この仕組みについては、日本経済新聞掲載の図を基に作成したもので説明したいと思います。図の縦軸は税額、横軸は所得です。

左から右上に上がっていく赤い線が元々かかる税額です。所得が多いほど税額も大きくなるので右肩上がりになります。

赤線の下に並行して斜め上に伸びる青い線があります。これが税額控除後の税額です。

赤線と青線の幅は、②の所得までは同じ幅です。

この①の一定額の幅が「給付付き税額控除」です。

税額がゼロから一定所得(★印)までの緑の三角地帯、これは現金給付としてもらえるゾーンです。ここが低所得層を支える新しい部分です。

仮に①の税額控除額が4万円なら、税額がゼロ(▲印)の人は、4万円もらえるわけです。また▲印以下の所得の人も同様に4万円がもらえます。

が支給額での点を境に給付が減り、でゼロになります。

オレンジの部分が税負担となります。これは②から③以降の人は、それなりに所得があるのだから、恩恵が減っていっても我慢してね、という意味です。その分、低所得者に給付を回そうということですね。

ただ、①の給付額、②の給付額が減り始める所得、③の給付額がゼロになる時の所得、これらをいくらにするか、そして財源はどうするか、これらは政策的にまだ決まっていません。

 

■所得税の仕組みと税額控除

ここまで、少し速足で来てしまいました。中には、「ちょっと待って、税額控除とか給付とかって言われても、どの部分を言ってるの?」・・・と戸惑われている方もいるかもしれません。そこで、この画面では財務省のパンフレットの図解を用いて所得税の仕組みを1枚で説明しておきます。すでに理解されている方は,飛ばして結構です。

図は給与所得者の場合です。

左から#①給与収入があり、#②の給与所得控除を差し引くと、#③給与所得の金額となります。③から#④人的控除を差し引くと#⑤課税所得の金額(課税ベース)となります。人的控除には、基礎控除、配偶者控除、扶養控除などがあります。

⑤の課税所得をもとに#⑥税額計算を行い#⑦算出税額を出します。ここから#⑧税額控除を差し引き、#⑨納付税額が出てきます。

やっと出てきましたね。⑨納付税額を出す手前で控除するのが#⑧の税額控除です。主な税額控除には、住宅ローン控除、配当控除、外国税額控除などがあります。④の人的控除と混同しないでください。⑧の税額控除は、本来納めるべき税金⑦から直接引かれるものです。

 

  簡単な事例計算

では、給付付き税額控除の例を見てみましょう。現時点で議論されている「給付付き税額控除」の給付額は、年間最大4万円が有力案とされています。

Aさん:たとえば、税額が10万円とします。

給付付き税額控除が仮に4万円とします。すると、この人の税額は

本来の税額10万円-税額控除4万円で、6万円が納付税額となります。

Bさん:税額が2万円とします。

本来の税額2万円-税額控除4万円で、納付税額はゼロ、現金給付額は税額控除で引ききれなかった2万円です。

Cさん:税額がゼロとします。

本来の税額ゼロ-税額控除4万円で、現金給付額は4万円そっくりもらえます。

非課税の人も同様に4万円支給されます。

控除は本来、税金を払う人にしか効果がありませんが、今見たように給付付き税額控除は、税金を払っていない低所得層にも現金で支援が届く新しい考え方です。

■老後設計の視点 年金受給と収入の関係

さて、ここからはFPの視点からシニアプランへの影響を考えていきます。

まず一つ目は、年金受給と収入の関係です。公的年金控除や基礎控除によって、課税されない方も多いのですが、その一方で、「非課税だからこそ控除の恩恵が受けられない」という問題があります。

この給付は、所得税がゼロでも控除額が給付されるため、年金のみの生活者にも「定期的な収入源」が生まれる可能性があります。また、障害年金と遺族年金は、所得税法により課税されない「非課税所得」です。そのため、年金収入に対して所得税がかからないので、給付付き税額控除の額がそのまま給付となる可能性があります。

ただし、政府の制度設計次第で、「対象を課税最低限未満の所得者に限定」した場合には、実際の支給判定がどうなるかは今後の詳細次第となるでしょう。

それからパートやアルバイト収入がある年金受給者で在職老齢年金の支給停止にかからない人も、働くほど損をする税・保険料の壁が緩和され、就労インセンティブが高まることになります。

 

■老後設計の視点 生活保護および低所得者層との関係

次に、生活保護と課税未満層の間にあるすき間層です。
収入が100万円〜130万円くらいの単身高齢者、非正規就労者などが該当します。生活保護を受けるほどではないけれど、課税されるほどの収入もない層の人がいます。生活保護より少し上の収入ですが、課税最低限ギリギリで、逆に社会保険料の負担がかかる層の人たちです

この人たちのように働いて少しだけ収入が増えても、生活保護を外れた瞬間に支援がなくなり手取りが減るという逆転現象を防ぐのです。

ここで「生活保護の人も給付されるの?」という疑問が出てきますね。生活保護を受けている人は、原則として生活扶助と重複して給付を受けることはできません。つまり、この制度の恩恵を最も受けるのは、生活保護を受けるほど低収入ではないけれど、税負担・物価上昇で苦しい層といえます。

注意したいのは、給付付き税額控除の財源は「いずこか」から出します。その「いずこか」というのは、中間層以上の人たちの税金になりますね。所得が中程度の世帯では、控除が減り、逆に負担が増える可能性もあります。そこの不満を解消する制度の工夫も必要でしょう。

また、給付の対象・金額は「個人単位」か「世帯単位」なのか。「世帯単位」で決まると、夫婦合算所得にも注意が向いてきます。

 

老後設計の視点③ 相続・贈与設計への影響

この給付付き税額控除が実行されるためには、所得把握の透明化が必要です。これにはマイナンバーとの連携が必須となります。逆にマイナンバー・カードを持っていないと、支援を受けにくくなる可能性がある、ということですね。

こうして所得把握がより正確になることで、相続や贈与にも波及するでしょう。たとえば、年金以外の副収入や贈与を受けている場合、それも所得把握の対象に含まれることで、支給や税額控除の判定に影響します。

つまり、資産移転がより「見える化」される時代になるということです。ただ、給付金を贈与に回す場合、税務上の取扱いを明確にするため、制度設計次第で注意が必要になってくるかと思われます。

 

老後設計の視点④ 税・社会保障の一体化の動き

給付付き税額控除は、実は税と社会保障の一体化の一歩として制度設計が進められています。

これまでの日本の制度は、「税」と「社会保障」が別々に動いていました。例えば、税では年収の壁が取り払われつつありますが、社会保険とのダブルの壁がまだあります。給付付き税額控除は、その壁を壊す第一歩となるのではと言われています。

一方で、こういう声もあります。

「だいたい年4万円程度で、低所得者の生活支援になるの?」

4万円というと、月3,300円程度です。確かに、金額だけを見れば小さく感じるかもしれません。でも、これをきっかけに税と社会保障がつながる仕組みが動き始めること。そこにこそ、この制度の本当の意味があると思います。
これが、将来の給付や再分配の改革につながっていく──
そう考えると、決して小さな一歩ではないかもしれません。」

 

今後の流れ

気になるのは今後です。給付付き税額控除の導入議論は、消費税減税や所得税再分配とセットで進む可能性があります。来年度(2026年度)税制改正では、
・マイナンバー連携による所得捕捉
・給付と減税を一体化する制度設計
 などが焦点になりそうです。

給付付き税額控除は、今はまだ制度設計中の段階ですが、方向性としては「誰も取り残さない税制」に向かっていければと思います。

ただ、そこに至るには所得の過少申告や不正確な所得捕捉による不正受給などの防止、そのためのマイナンバーとのシステム連携など難しい問題もあります。

さらに、配当や譲渡益などの金融所得がある場合や、低所得でも資産の多い人への給付額はどうするのかなど、資産形成と給付のバランスについての問題、また、申請手続きの煩雑さなど、導入へのハードルがまだ高いところもあるようです。これらの課題は、シニア世代にも直接絡んでくると思われます。

 

 

(2025.10) 

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