■離婚・再婚しても遺族年金がもらえる? キーは“子”
離婚、再婚しても、遺族年金はもらえます。キーになるのは、子がいるかどうかです。
前回も同様のテーマでお話をしました。少し複雑だったので今回は、離婚・再婚に絞って深堀りしてお送りします。そして最後に、大切な要件を1つ、まとめてあります。
最後までお付き合いください。さっそく見ていきましょう。
■【事例1】再婚でどう変わる? 妻の受給権の喪失
再婚すると(これは婚姻届あるいは内縁を含みます)、妻の受給権は基本的に消えます。問題は“子”がどう扱われるか。
これは、年金改正で、2028年から施行される内容です。配偶者は夫と妻の場合がありますが、この動画では妻を想定しています。
・夫と死別後に再婚した場合
夫が死亡した場合、妻は生計維持関係にあれば配偶者として遺族年金が受け取れます。妻は夫死亡後も、引き続き子を養育していかなければなりません。ここで、妻が再婚したらどうでしょう。1
現行では、妻は遺族年金がもらえなくなります。
●妻が婚姻したとき(内縁関係を含む)
という、失権要件があるからです。遺族基礎年金、遺族厚生年金とも共通です。
では、「子」はどうでしょう。
子は、妻の次の順位にあるから遺族年金をもらえる。 そう思いませんか。
しかし現行制度では、子は、妻(母親)が失権したら、その生計維持関係が途切れて、「子」の遺族年金も失権してしまいます。これは、妻が内縁関係にあっても婚姻があったとみなされ失権事由となります。
なんか、しっくりしませんね。子の失権要件には、親の再婚という事項はないんです。ここが矛盾点だったのですね。そこで、改正により遺族基礎年金が変わります。
➡「再婚した妻(こどもの母)と子が生計を同じくしていても、こどもは遺族基礎年金を受け取れるようになる」
「再婚した妻と子」が生計でつながっていれば、妻に受給権がありそうですが、妻は再婚したことで配偶者資格を失っています。それでも子は、元配偶者(元夫)のもとで生計を維持されていた事実を考慮し、子の受給を救済する枠組みが設けられるのです。
ただ、この部分についての遺族厚生年金は現行のままです。遺族厚生年金の具体的な改正点は過去の配信をご参考ください。
■【事例2】離婚しても遺族年金がもらえる
次は夫が亡くなる前に夫婦が離婚していた場合です。元夫が亡くなっても当然妻は遺族年金をもらえません。すでに配偶者ではないからですね。では、元夫に「子」が養育されていたら、子は遺族年金がもらえるでしょうか。もらえます。受給権の優先順位は妻の次ですから。
ここで、わが子の今後の生活を思って、妻は子を引き取ることとします。すると、遺族年金はどうなるでしょうか。
妻に受給権がない以上、今後、生計を同じくしても、現行制度では子ももらえなくなります。これもなんだか矛盾を感じますね。子どもは「子の受給権」として遺族年金をもらうわけですから。そこで、年金改正でこう変わります。
➡「子が元妻(こどもの母)に引き取られて、生計を同じくしていても、こどもは遺族基礎年金を受け取れるようになる」
「生計を同じくして」いれば、引き取った妻に受給権があって不思議ではないですよね。しかし、妻はいったん離婚しているので、その時点で受給者ではありません。受給者でない者と生計維持関係にあっても、現行ではその「子」には受給権はないのです。その不都合を解消しようというわけです。ただ、これも遺族厚生年金は現行のままなのです。
■【事例3】離婚した妻が再婚したら
では、前の事例で妻が再婚したらどうでしょうか。整理すると、
① 妻が離婚した②夫が子を引き取った③夫が死亡した④離婚した妻が子を引き取った⑤妻が再婚した
となります。
再婚しても「子」は引き続き遺族年金をもらえることになります。再婚しても妻の実子であることに変わらないからです。
ただし、この新しい夫(父親になる人)と養子縁組すると、戸籍上(法律上)の親子になり、子は遺族年金をもらえなくなります。「子」の失権要件の1つに
●直系血族または直系姻族以外の方の養子となったとき
というのがあるからです。再婚相手が後で法定の養子縁組をするケースがあります。妻が普通に夫婦として籍を入れる分には問題なく、子は遺族基礎年金をもらえます。
■遺族年金をもらえる人の基本要件
さて、ここからは今までの事例をよりよく理解してもらうための根拠を説明します。まず遺族年金は、誰がもらえるか。現行制度で簡単に見ていきましょう。
遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金があります。これらを受給するには大前提があります。
・死亡した人に生計維持されていた遺族であること
・もらえる遺族には優先順位があること
この2つが基本にあることを覚えておいてください。これがわかっているのと、いないでは、大きく変わってきます。
■遺族年金は誰がもらうか
遺族年金は、生計同一の「子のある妻」か「子」がもらえます。
では、遺族の受給権の優先順位とはどういうものか。優先度の高い順に次のようになります。
① 子のある配偶者
② 子(子は、18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人を言います。)
③ 子のない配偶者
④ 父母
⑤ 孫(②の子と同じ年齢要件です。)
⑥ 祖父母
となっています。
このうち、①子のある配偶者と②子は、要件を満たせば、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方もらえます。
■妻が失権すると子がもらえる
ここまでが、遺族基礎年金と遺族厚生年金をもらえるための基本要件です。離婚してしまうと、もらえるのは妻ではなく、「子」です。
それでは、現在遺族年金をもらっている人がもらえなくなる場合を見ていきましょう。
遺族基礎年金、遺族厚生年金とも、妻が離婚した場合や、子が18歳になった年度末で、受給権がなくなります。これは共通です。
そこで、いくつかある条件の中から離婚や再婚に絞って「子のある妻」と「子」の場合で考えてみましょう。
■「子のある妻」が失権する場合(妻自身の要件)
妻が受給していて、次に該当した時、失権します。日本年金機構の資料の現行制度では、いくつかある中で妻自身の要件で離婚・再婚に絞ると、
●妻が婚姻したとき(内縁関係を含む)
とあります。これは遺族基礎年金、遺族厚生年金共通です。
「婚姻した時」とは、つまり再婚ですね。妻が現在、遺族年金を受け取っているということは、夫がすでに亡くなっているからです。妻は亡き夫と生計維持関係にあったので、妻が遺族年金を受給していました。これが、再婚するともらえなくなります。元夫の配偶者でなくなるから当然ですね。これは改正後も変わりません。
ただ、「受給権剥奪=即時自動的」ではなく「届出・審査・手続で停止・失権判断」が行われることを補足しておきます。
細かな点は日本年金機構の資料を参考にしてください。
■子が失権する場合(子自身の要件)
このほか、「子」自身が受け取っていて、これが失権してもらえなくなる場合もいくつか要件があります。
そのうち妻の離婚、再婚に関連して子の受給権が止まる要件で大切なの1つです。それは、
●直系血族または直系姻族以外の方の養子となったとき
これは、先ほどもありましたね。簡単に言うと、子が母方、父方の親族関係以外の人の養子になると、遺族基礎年金はもらえなくなります。逆に、この要件に当たらなければ、「子」は遺族年金をもらうことができます。
■“Key”となる「子の養子縁組」
以上から、妻の「離婚」「再婚」に限って言うと、今回の年金改正で重要なことは次のことです。
・「子」が養子縁組しないこと
この1つの要件が、とても重要になります。元妻が再婚の夫と入籍するだけなら問題ありません。
ただし、“養子縁組しないこと”が常に最善かはケースバイケースなので、他の状況も含めて個別ケースは専門家や日本年金機構にお問い合わせください。
(2028.09)