外国人の脱退一時金が改正! でも…日本人にとって“公平感”は?

皆さんの職場には、外国人の方が働いていませんか。一緒に働いている外国人のことをちょっと知るだけで、私たち日本人のことをもっと知ることもあるかもしれません。

今年の年金改正であまり注目されずに改正されたものがあります。「外国人の脱退一時金制度」です。実は私、数年間ですが日本年金機構でこの「脱退一時金」の業務をしていたことがあります。

恥ずかしい話ですが、当時はなんの疑問もなく仕事をこなしていました。

でも、今年の年金改正を調べていたら、これは外国人だけでなく、私たち日本人の年金、いや我が国の年金制度そのものにも深く関わっているんですね。

外国人に対して公平か,不公平か。では、一緒に見ていきましょう。

 

■ 外国人は一時帰国するとお金がもらえる“不公平感?”

これは実際あったパターンをもとにしています。

あなたの職場にAさん(24歳)というベトナム出身の男性がいます。2年前、技能実習生として来日し、あなたと同じ部署で働いています。Aさんは今年帰国することになりました。せっかく親しくなったAさんと別れるのは残念だなと思っていました。するとAさんが言いました。

「また来るから、心配しないで」

「また来るって?」・・・それなら帰国しなくてもいいじゃない?

実は社長に2年たつので一旦帰国してまた来なさい、会社から手当てが出るからと言われたそうです。実習生として更新し、まだ日本で働けると思っていたのに。その手当というのが脱退一時金です。本当は手当ではなく、年金保険料の戻りなんです。

実はこの脱退一時金制度は、日本人よりも日本で実際に働いている人の方がはるかにこの存在を知っているし、敏感です。当然ですよね。自分が本国に帰る時に、お金がもらえるかどうかのことですから。ところが、制度の名前を知っていても内容はよくわからない。

実際に毎日その申請書類をチェックしていた私も、申請書の説明を読んでもよくわかりませんでした。ということは、外国人は母国語で翻訳されていてもわからないですよね。「なんか、一旦帰国するとお金がもらえる」・・・そのことは外国人は理解しているのです。

 

■4 ベトナム出身のAさんの事例

事例を見てみましょう。Aさん、ベトナム出身です。

就労2年(技能実習生) 給与20万円

今回の出国で脱退一時金受取は2年で約48万円(国民年金+厚生年金)です。

Aさんは、

●次に2回目の入国したら今度は特定技能1号として5年働けるから、5年後にまた2回目の一時帰国をすれば、その時は給与24万円として、帰国手当が165万円になると言われたそうです。正確な金額は加入期間や給与水準によって異なります。だとしても、これは会社から出る手当ではないのですけどね。

再入国したら5年経過後にまた2回目の一時帰国した後に3回目の一時金に入国、今度は永住資格の取得をめざし、今付き合っている日本の女性と結婚して日本に定住したいとのことです。

 

5 一時金について4つの疑問

さてここで、こんな疑問が湧きました。

   Aさんは帰国を繰り返しても、その都度脱退一金をもらえるのか

   日本人は保険料支払いをやめても、一時金がもらえないのはなぜか

   日本企業の社長が一時金を「手当」名目で支給すると言って帰国を促すことは可能か。

   外国人も日本に永く住んでいれば老齢年金がもらえる

 

もしあなたが、Aさんから一時帰国の相談を受けたら、どうしますか?

 

6 疑問への回答

では、先ほどの疑問について回答を考えていきます。

   帰国を繰り返してもその都度脱退一金をもらえる

YES。日本年金機構の説明によると、加入期間に応じた脱退一時金の受給をもらう場合には、各在留期間終了後の帰国の都度、請求が必要です。

   日本人は保険料支払いをやめても一時金はもらえない

YES。日本人は10年未満だと老齢基礎年金を受け取れないどころか、一時金もありません。ここが、「なんか、外国人優遇じゃない?」という声が出るわけですね。

   会社が一時金を「手当」名目で支給すると言って帰国を促すことは可能

YES and NO。帰国を促して本人が了承して帰国して一時金をもらうことは可能です。しかし、年金の一部である一時金を会社の手当として支給(実際は年金機構から振り込まれます)とするのは企業倫理としてはNoでしょう。

   外国人も日本に永く住んでいれば老齢年金がもらえる

YES。通算10年の国民年金の加入条件は日本人と同じです。ただ、Aさんのように脱退一時金をもらうに要した就労年限の年金加入期間は帳消しになります。2回、3回、脱退一時金をもらうと、そのたびに年金加入期間がゼロになり、年金の受給条件を満たしにくくなるし、年金がもらえても少なくなります。

さて、Aさんの友人であるあなたは、どんな助言をしたらいいでしょう。

 

■ 疑問に対する基礎知識

その前に、簡単に脱退一時金の制度について知っておきましょう。

制度概要

日本の公的年金に加入した外国人が、老齢年金の受給資格(10年)を満たさず出国する場合、6か月以上の加入期間があれば支払った年金保険料の一部が返金される制度です。

受給要件(一部)

        日本国籍を有しない

        国民年金または厚生年金に加入していて、6か月以上の保険料を納付

        老齢年金・障害年金の受給資格がない(加入期間10年たっていない)

        日本国内に住所を持たない、かつ出国後2年以内に請求

制度の必要性

        短期滞在では老齢年金の受給資格を満たせず「掛け捨て」になりがち。その問題を解消する制度として成立したもの

 

■ 何が問題で改正されたか(再入国許可問題)

Aさんのように、再入国許可付きでの帰国再入国再帰国再入国を繰り返す外国人が、脱退一時金を毎回受給してしまうという問題がありました。

そうすると、老齢年金の受給資格を満たすのが難しくなり、やがて無年金、低年金の状態に陥る、そういう外国人の高齢者が増えていくと、日本国民全体の問題にもなります。

一方で、特定技能制度(最大5年)や技能実習(3年)を経て、合計最長8滞在するケースが増加していることから、現行の滞在5年上限では短すぎるとの声が高まっていました。

 

■ 脱退一時金の見直し内容

そこで今回、年金法の改正がされました。以下、厚生労働省が発表した資料をもとに解説します。

支給要件の見直し(再入国許可)

将来の年金受給に結びつけやすくする観点から、再入国許可付きで出国した人にはその許可の有効期間内は脱退一時金は支給しないこととする。ただし、再入国しないままで許可期限を経過した場合には受給が可能とする。

➡現行制度はというと、再入国許可付きの出国をした場合でも脱退一時金の受給が可能です。

支給上限の引き上げ

・在留資格の見直しや滞在期間も踏まえて、支給上限を現行の5年から8年に引き上げられます。

➡新たに育成就労制度(3年)が創設され、特定技能1号(5年)に移行することで、計8年、我が国に滞在する外国人が増加が予想されます。

 

■ なぜ日本人には脱退一時金がないのか? 

ところで、素朴な疑問。なぜ日本人には脱退一時金がないのでしょう。これは制度設計の考え方が違うからです。

●日本人は原則、一生日本に住み続けることを前提に制度がつくられており、途中で払えなくても将来また加入する可能性があるということ。そのため、「短期で出ていく」前提の外国人とは制度の出発点が違います。

●実際の救済策として

「払い損」という声をやわらげるために、日本人にはいくつか救済策があります。

        任意加入制度
60
歳以降も未納分を埋めるために加入できる。40歳代や50歳代で未納がある人が挽回可能です。

        カラ期間(合算対象期間)
学生時代や海外在住など、保険料を払っていない期間を資格期間に算入できます。

        障害・遺族年金は加入期間が短くても対象
老齢年金だけでなく、他の保障を含んでいる点もあります。じつは、これまで動画でも障害年金や遺族年金についても配信してきましたが、これらの年金にも障害一時金・死亡一時金、があるのです。

 

■ それでも残る納得できない気持ち

        日本人では、実際には「長く払ったのに、資格要件をわずかに満たせず年金ゼロ」という人もいます。9年11カ月払っても、1カ月不足で、年金は1円ももらえません。せめて月割り按分してくれればいいのに、と思いますよね

        政府もこの不満を意識していて、実は2017年の改正で加入要件を25→10年に短縮した経緯があります。

        今後さらに「最低受給期間をもっと短くすべきだ」という議論は、少子高齢化のなかで出てくるかもしれません。

 

■ 外国人Aさんへのアドバイス

結局、日本人であるあなたは、Aさんにどんなアドバイスができたでしょう。

●1つは、Aさん本人が将来日本に住み続ける意思があるなら、短期間の一時帰国は考え直した方がいい、ということです。

➡これは、日本で家庭を持ちたいというAさんの希望に沿うでしょう。なぜなら、脱退一時金を受給しなければ、そのための就労期間、3年や5年分が年金受給資格にカウントされ、生涯の年金受給につながるからです。

もちろん、技能実習生制度による在留制約がありますから、それは守ったうえで、在留資格の更新をめざして永住資格を取ることが良いと考えられます。

●2つ目の問題です。経営者から一時帰国することで「手当」を出すから、いったん帰国してまた入国しなさいと言われたら、どうする?

➡これは厳密に会社側の違法とは言えませんが、企業倫理に反していますね。「手当」といってもこれは給与でもなく公的年金の性格のものです。自分の希望に反して一時帰国を迫られたら、やはり専門家に相談するようAさんに勧めるといいでしょう。会社に相談しても解雇など不当な扱いに追いやられることもあるかもしれません。

 

外国人の脱退一時金は、外国人だけの問題ではなく、私たち日本人が自分の年金を考えるきっかけになる制度なのですね。

 

 

(2025.08) 

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