がん保険、要る? 検証してみた!

  「がん保険って、必要?」ということを耳にします。私はFPなので、普通は保険によるリスクマネジメントを前提にライフプランを立てます。でも、実際は個人ごとに生活状況が違いますので、保険加入が必須と一概に言えることではありません。

 今回は、あくまで一般的データをもとにして、皆さんの場合はどうでしょうか、という判断をご自分でされるよう、実際の金額で見ていきたいと思います。

 

   がん保険は要らない?

 「がん保険は不要」という理由のひとつに、「がんにかからなかったら、保険料が無駄になる」というのがあります。でも、この考え方はリスクプラン的にちょっと危険かもしれません。あらかじめお断りしておきますが、私は「がん保険に必ず入れ」という立場にはありません。

「いや、がんになった時のこと考えると、丸ごと保険加入でお任せ、その方がかえって安心」という人もいるでしょう。そういう人は、お金の損得ではなく、気持ちの損得で考えているのでしょうから、それはそれでいいと思います。

 ただ、話を戻すと、「がんにかからないなら、保険はいらない」というのは、「あした死ぬわけじゃないから、生命保険はいらない」というのと同じですね。多くの人が生命保険に入るのは、もし明日、事故や急病で死亡したら、残された家族の生活が大変だからです。それに備える、これがリスクプランニングです。

 確かに資産が十分ある人は、保険は不要だと思います。また、公的保障があるから大丈夫という場合もあるでしょう。でも、その判断は、何をもとにされますか? 治療にどれくらいの費用、どれくらいの期間かかるかわからないと、判断が難しいですね。

 

 費用はどれくらいかかるか-【事例】

 そこで、事例をあげて費用や自己負担はいくらかを見ていきたいと思います。また、がん保険に入った場合の保障は、具体性を持たせるためA保険会社のものを参照しましたが、この保険を推奨するものではありません。

●事例は40歳男性、月収40万円

●経過をみます。

1 人間ドックで精密検査が必要となり、直腸がんと診断されました。

2 7日間入院でロボット支援下手術を行う

3 病理検査によりリンパ節転移、抗がん剤治療を6か月行う

4 その後肝転移・骨盤内再発で、抗がん剤治療を18か月継続

  この事例では、2年以上の治療・療養が必要となりました。

 

 医療費支払いの発生は?

 かかる費用は、入院費、手術費、検査費、抗がん剤治療費、食費・通院費などです。

 保険適用前の総額推定額は、

表の①「保険適用前費用」を見てください。

・入院+手術:約150万円

・抗がん剤治療(6か月+18か月):薬剤・診療費で合計720万円

・合計:約870万円となります。先進医療を選択した場合はもっと高額

になりますが、今回は選択しません。

 

 公的保障でどれだけカバーされるか

公的保障には高額療養費と傷病手当金があります。

高額療養費制度では、事例の給与.月額40万円で自己負担限度額は約8.7円。ひと月にこれ以上の負担額は発生しません。治療期間の合計は約122万円です

傷病手当金は、会社員が治療のため休職する場合、月給の2/3の額、事例では月26.6万円が最長16か月間支給されます。合計で約480万円です。ただ、これは治療費として支給されるのではなく、収入減少による生活費の補填として支給されるものです。逆に言えば実質、給料の1/3、事例では月14万円ほどがマイナスになる点に注意してください。月給の2/3新たに支給されるわけではなく1/3が削られるのです。それから、無理して就労しながら通院するとなると、途中で傷病手当金の支給が停止されることになります。

 

 保険会社の保障事例を見てみよう

  では、A保険会社の保障例を見てみましょう。

保障内容は標準プランの場合です。

・がん一時給付金:100万円。がんと診断された時に出る一時金です。

・がん治療給付金:月10万円(入院7日+通院6か月+通院18か月)で合計350万円となります。

 

 実際の自己負担額はいくらか?

高額療養費適用後の実際の自己負担はいくらか。

先進医療費は保険適用外ですから、これを選択した場合は自己負担となります。ただし、先進医療保障特約を付加できるプランもあり、通算で2000万円の給付が受けられます。その場合、支払う保険料は1.5~1.6倍になります。ただ、今回は選択しないプランです。では、診療以外に自己負担となるものは何か、費用はどれくらいか。それを見てみます。

・差額ベッド代

・食費

・通院交通費

・入院雑費 など

これらもろもろで、人によりますが50万円前後でしょうか。

こうしてみると、

「保険なしの最終的な自己負担額」は122万円に50万円プラスで、およそ172万円となります。

「そうか、貯金がだいたい180万円以上あれば、がん保険に入らなくて済む」…こういうことになりますね。でも、それほど単純ではないかも、ですね。

 

 いくらあれば、保険は要らないか?

 「保険会社給付」は合計で350万円。これに対して「保険なしの最終的自己負担額」は172万円。もし貯蓄がそこまでなかったら、がん保険に入っていれば、まるまる補えます。178万円が金額面だけで見ると、差額がプラスになります。

 ところで、もう一度傷病手当金を見てください。休職していても総額約480万円支給されます。

逆に言えば、給料の1/3、総額240万円のマイナスの給付となるのです。これは、治療費ではなく、生活費に充てられる給付です。つまり240万円の収入減少、言い方を変えれば出費増加です。

結果として、172万円、そしてこの240万円で合計412万円、これが貯蓄として必要となります。

それから、1年半も休職となると、雇用契約が終了する場合もあります。仮に完全な休職ではなく時短勤務であっても、副作用や体調が戻らず元の勤務復帰が難しいこともあるでしょう。そうなると、さらに収入減少も考えておかなければなりません。

 

 がん保険加入の分岐点-1

 先ほどは、貯蓄面から加入の分岐点を見ました。次は、療養期間からみた加入分岐点を見てみます。

がん保険の役割は主にここまで見たように
医療費自己負担の補填と収入減(生活費)の補填の2つです。それを踏まえて、療養期間で見てみます。

  • 療養期間が短い(36か月)の場合
    • 高額療養費制度で医療費負担は数十万円程度
    • 傷病手当金で収入減の大部分をカバーできる
    • 自己負担の総額は100万円以内に収まることも多く、貯蓄で対応可能です。
      これは、保険不要論が出やすいケースです。
       

 がん保険加入の分岐点は-2

  • 療養期間が1年以上の場合
    • 傷病手当金は最長16か月ですが、復職できないと収入ゼロ期間が発生します。
    • 医療費は高額療養費で抑えられても、生活費の穴が広がることに。

これは保険加入となるケースです。この辺が期間としての分岐点になりそうです。

 

 がん保険加入の分岐点は-3

  • 療養期間が2年超(今回の事例)の場合

・医療費自己負担:約210万円

・逸失収入:傷病手当金で補えない分=240万円

・合計の家計マイナス:約450万円
④の保険給付350万円があっても、穴を全部埋められないことになります。

·      結論として、「療養1年以上」が保険加入の分岐点になりそうです。しかし、期間が長引くと保険給付だけでは埋められない場合があります。やはり、相応の貯蓄は必要となりそうです。

·      「もし半年以内で復職できたら」「逆に、1年以上かかったら」どうでしょう

付け加えておくと、今回の事例は会社員でしたが、フリーランスの場合、傷病手当金はありません。治療期間中、大幅な減収となりますので、それも考慮しておきたいところです。


■ 保険加入は個々のライフプランによる

保険加入の是非は、個々の家族と収入や貯蓄、職業、ライフプランによります。それを踏まえた上で

  • 療養期間が半年以内か、1年以上か
  • 貯蓄がいくらあれば、治療費・生活費減少を補えるか

それと、これは金額の損得でなく、心理的安心材料として

  • 自己負担の金額にかまわず、全部お任せで安心できるか

これらを判断材料として、がん保険が自分にとって必要か不要か、考えてみてはどうでしょうか。

 

(2025.08) 

 

 

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