■障害年金の対象となる範囲は
障害年金のイメージはどういうものですか? 年金は大きく3つの構造になっ
ていますね。老齢年金、遺族年金、障害年金。老齢年金は誰でも高齢になれば受給対象者になります。遺族年金は、加入者が亡くなった時のものです。これも生活に直結しています。
では障害年金は? 「障害」というイメージから、手足などの運動障害や感覚機能の障害ととらえられがちです。もちろんそれらも含みますが、内臓や脳の疾患、心の病気、がんなど、あらゆる病気やケガが対象、ということは誰でも障害年金の対象になりうるのです。
■障害年金の認定基準
国 民 年 金 ・ 厚 生 年 金 保 険の「障害認定基準」を見ると、非常に細かく規定されています。
活動範囲で言うと、1級ではベッドの周辺、2級では病院内や家屋内、3級は労働に制限がある、という状態です。
障害の判定は図のようになっています。
1級・・・他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態です。
2級・・・必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です。
3級・・・労働が著しい制限を受ける、または、労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態です。
いずれにしろ、生活や労働が著しく制限されます。
■障害年金はいくらもらえるか
では、障害年金はいくらもらえるか? 先に事例を見てみましょう。
例えば夫は40歳で、平均標準報酬月額30万円、厚生年金加入期間20年とします。妻は扶養されていません。
もし、この夫が障害年金1級の受給対象者となったら、基礎・厚生合わせて年約186万円、月約15万5000円です。妻が扶養されていれば加給年金が年219,300円(月約18,000円)加算されます。
1級となれば、先ほど見ましたがほとんどベッド周りでしか動けません。配偶者は仕事をやめることになるかもしれません。もちろん、このような事態を避けるため医療保障や収入保障保険などに入っていることでしょう。
生命保険や医療保険もそうですが、まず公的年金で保障される分を計算し、それで不足分を民間保険でカバーしますね。
障害年金は1級で年間186万円、10年で1860万円、20年だと3720万円の給付となります。この年金が続くかどうかは、判定基準によりますから大きな影響があります。
快方に向かって等級が下がっていくならいいのですが、もし判定に恣意的判断が入っていたら、受給者にとっては大変な問題ですね。
■障害年金の仕組み
改めて障害年金の仕組みをみておきましょう。障害基礎年金は2級.1級、障害厚生年金は3級.2級.1級とあります。1階が基礎年金、2階が厚生年金の2階建てというのは、老齢年金と同じ構造です。
基礎年金の1級は2025年度は1,039,625円、2級は831,700円です。
厚生年金の2級は報酬比例の年金額で、厚生年金の加入期間や給与などによって報酬比例が決まります。1級は報酬比例の1.25倍で計算します。
基礎年金には子の加算、厚生年金には配偶者の加給年金が加算されます。
■障害年金と生活保護
ここで、障害年金と生活保護について考えてみましょう。
生活保護費は「最低生活費-障害年金分」で調整されます。
障害年金だけでは、経済的に非常に困難となります。「そうだ、こういう時こそ生活保護がある」・・・では、この2つは同時に受けられるでしょうか。
例えば、独身の生活保護費は平均月約12万円と言われています。
障害年金の2級では、月約12万円です。これは両方もらえるか?
基本は、障害年金をもらいながら、生活保護を申請・受給できます。ただし、このケースのように、「12万円+12万円」で合計24万円がもらえるわけではありません。
このケースだと、先に障害年金受給が決定され、足りない分が生活保護費となりますから、金額がほぼ同額の場合、生活保護費はほとんどありません。障害年金が最低生活費を上回れば生活保護は終了します。なお、自治体によって障害者加算などが別途加わることもあります。障害年金は就労や一時所得があっても継続でき、自由に使え貯蓄は可能ではあります。とはいえ、1級、2級の場合、労働は非常に困難な状況ですし、3級でも労働は大幅に制限されるのは先に見ました。
■障害年金と老齢年金
「それじゃあ、65歳になったら、老齢年金ももらえるね」・・・障害年金をもらっていても、65歳以後老齢年金をもらうことは可能です。
その場合、次の3つの選択肢があります。
① 障害基礎年金+障害厚生年金・・・これは、障害年金のみです。
② 老齢基礎年金+老齢厚生年金・・・これは、老齢年金のみです。
③ 障害基礎年金+老齢厚生年金・・・これは、障害年金と老齢厚生年金の組み合わせです。
これらは、3つの組み合わせのうち最も有利な選択ができるということであって、「障害基礎+障害厚生」のほかにも老齢年金がもらえるわけではありません。
それに、障害年金をもらっていても、老齢年金が満額出るとは限りません。#障害年金受給中に保険料を納め続ければ老齢年金に加算されますが、現実問題として「障害年金の受給=働けない状態」なので、保険料の納付は難しいです。保険料の全額免除期間は、将来の老齢基礎年金に1/2しか反映されません。部分免除では3/4や1/4となるケースもあります。
■一生もらえるわけではない
障害年金が老齢年金や遺族年金と決定的に違うところがあります。それは、一生もらえるわけではないということです。「いや、1級なんて一生働けない状態でしょ。それを途中で支給を打ち切るの?」・・・・
これは定期的に「障害状態確認届(診断書)」を提出し、軽快していれば支給停止されることもあるのです。精神疾患などで2級→3級→支給停止となるケースも実際にあります。
本当に状態が良くなって、支給停止になるなら喜ばしいことですが、認定基準の運用が仮に恣意的になされるとしたら、受給当事者の生活に直接かかわってくる問題です。再審査や不服申し立ての制度もあるため、認定結果に納得がいかない場合は専門家に相談することが大切です。
■障害年金と民間医療保険
障害年金はあくまで公的な所得保障です。治療費や手術費に関しては制度対象外です。だからこそ、民間医療保険(傷害・入院・手術など)との併用が検討されます。ただ、民間保険は治療や入院に関して給付される一時金や保証が主体です。
また、すでに説明した通り、精神疾患、がんなども障害年金の対象となります。収入補償保険や、がん保険などの保険を考える場合にも、まず障害年金の受給額を知っておくと、病気やけがなどのリスク対策になるかと思います。
老齢年金や遺族年金については、多くの関心がもたれますが、じつは障害年金も私たちの生活に直結していることがわかった気がします。これからの保障プランに役立てば幸いです。
(2025.08)