運用アドバイスの罠

資産設計で平均リターンが実現しないわけ

[概要]

資産設計においてポートフォリオの平均リターンは、将来もその収益率を実現するとは限りません。したがって目標額に達成する可能性も想定外となります。平均リターンは過去データから出された期待値であって、将来設計のための確定値とはならないからです。

 

将来のシミュレーションをモンテカルロ法により行うと、その中央値は平均リターン以下となる可能性があります。この平均値と中央値を取り違えて老後設計をするとキャッシュフローに狂いが生じ、将来大きな修正を避けられなくなります。

 

このため常にポートフォリオの資産配分を注視し、必要であれば資産配分率の調整や資産組換えなどポートフォリオの見直しが必要となります。

 

 

■モンテカルロシミュレーションによる資産設計図

 

●平均利率は確定利率ではない

将来の老後設計のために、例えば、

「現役引退時までに2000万円を貯め、老後はそれを運用しながら一定額ずつ取り崩していく」

 

という運用アドバイスがあります。NISAやiDecoなどで老後設計のため早い時期から安定的に運用しようというのはこの趣旨に当てはまります。では、これで老後設計は安心ということになるでしょうか? ここに資産設計アドバイスの「罠」があります。どこに問題があるでしょうか。

 「年平均3%で積立運用していけば・・・」

 

アドバイザーからこのような提案をよく聞きます。これは仮定の話であって、しかも保証がありません。これが仮定でなければ、年利3%の定期預金に積み立てていけばいいという話です。ただし、今どきそんな利回りの良い預金はありません

 

過去データから出された平均リターン(収益率)が、将来も同じリターンで実現するか?  これが実現しにくいことは、これまでも指摘されています。にもかかわらず現在でも平均リターンが20年、30年先の将来も実現するかのように言うアドバイスは老後設計を狂わせる怖れがあり、危惧されるものです。

 

運用するということは、当然リスクがあります。アドバイスする側も受ける側もそのことはわかっているつもりでしょう。例えば「リターン5%、リスク10%」という時、

「平均5%のリターンがあるが、プラスマイナス 10%は上下にブレる可能性がある」

 

という意味です。この場合、一般的にはリターンの上限は+15% (5% +10%)、下限は−5% (5% − 10%)となる可能性があります。つまり+15%から−5%までリターンには幅があるわけです。このブレがリスク(標準偏差)というものです。これは平均分散に基づく考え方です。

 

ところが、人間は自分に都合の良い可能性を考えがちです。「リターン5%、リスク10%」という場合、頭ではリターンにブレがあるとわかっていても、投資者(一般生活者が投資行為をするという意味で投資家とは区別します)はそれでもなお、「平均でいけば5%のリターン」が得られると考えがちです。アドバイザーも

「年平均5%で運用すれば、20年後には資産残高はこの金額になります」

 

と提案します。そしてこの5%運用のためのポートフォリオを出します。「仮定」はいつしか「確定」路線となっています。

 

ここに「罠」があるのです。平均で5%というのはどういうイメージでしょうか。経済成長は良い時もあるし、悪い時もある、普通の場合もあります。その他リターンに影響を及ぼす要因は何百、何千通りもあります。それによる上昇、下落も含めてトータルで平均5%の運用成果となるということでしょうか。

 

●「平均」から生じる乖離

そこで、1つの運用シミュレーションで考えてみます(上図参照)。これはモンテカルロ法によるもので、将来可能となるリターンについて1000パターンを想定したシミュレーションです。<注>

 

上図の例で見てみましょう。

・50歳から65歳までの15年間で資産1000万円を2000万円にするため一括運用する(追加投資なし)

・66歳から86歳の20年間で資産を運用しつつ毎年120万円(毎月10万円)を取り崩す

 

15年間で目標設定額2000万円に到達するためには、単純に複利計算して年平均約5.0%の利回りで可能となります(終価係数)。シミュレーションではこれを実現するために「リターン5.08%、リスク11.3%」のポートフォリオを提示します。しかしこのシミュレーションでは、運用が「平均」で行っても15年後の到達額は1600万円にしかなりません(太い青線)。これは年利回りにすると約3.2%です(現価係数)。

 

また、66歳以降に元本を運用しながら取り崩していく場合でも、年5%運用であれば35年間(100歳まで)取崩しが可能です(資本回収係数)。しかし、太い青線で見ると20年間(85歳まで)で資金は枯渇します。これらの差は何でしょうか。

 

シミュレーションの説明を見ると、

「投資目標『15年後に2000万円を確保したい』を達成する可能性は29.9%程度と予測されます」

 

というメッセージが出ています。言い換えれば29.9%の確率でしか利回り5%での「投資目標額2000万円」を達成できないということです。もちろん、これは運用リスクがあるからです。シミュレーション後半の取崩し運用でも同様のことが言えます。

 

しかしここで、投資者はこう考えるのではないでしょうか。

「投資にはリスクがあるのはわかっている。そのリスクを踏まえての平均利回りではないか? 良いケース、悪いケースを踏まえての平均ケースではないか」と。

 

この投資者の言いたいことはこうです。仮に「リターン5%、リスク10%」だとすると、リターンの最高は+15%、最低は−5%になるにしても、良くも悪くもその平均として5%の収益率は実現可能なのだと。

 

では、なぜ平均リターンからかけ離れた運用成果になるのでしょう。平均リターンは5%(予測値2000万円)なのに、将来シミュレーションでは平均ケースで3.2%(予測値1600万円)にしかならない。目標額と400万円も差があります。これは収益率の「平均」と将来起こる生起確率の「平均」を取り違えているからです。正規分布図では、平均値5%を中心に釣鐘状にプラスとマイナスに左右に広がるほど生起確率が低くなっていきます。確率的には上図のシミュレーションでは30%ほどしか「平均」は起こらないのです。

 

実際のところ、将来予測図での「平均」というのは「中位」(中央値)という意味です。このモンテカルロシミュレーションには次の説明が記載されています。

 

 将来の運用額の推移を予測するにあたりモンテカルロ法という分析手法を取りいれております。こ  

 こでは将来予測を1000回繰り返し、そこから得られた1000通りの結果を元に以下のような分析結

 果を表示しております。 

 ◆ 平均的なケース:将来予測を1000回繰り返し、そこから得られた1000通りの予想額の500番目   

  の予測値。 

 ◆ 良いケース:将来予測を1000回繰り返し、そこから得られた1000通りの予想額の100番目の予

  測値。 

 ◆ 悪いケース:将来予測を1000回繰り返し、そこから得られた1000通りの予想額の900番目の予

  測値。 

 

基本的なことになりますが、中央値は平均値ではありません。図では中央値(500番目の予測値)は平均値よりも下方になっています。平均分散法で出された平均リターンが将来もそのままリターンとして実現するのではないということです。投資者(アドバイザーも含めて)は「平均5%のリターン」のことを、

「良くいって平均の5%より上、悪くいっても平均にならせば結果的に5%のリターン」

 

と思いがちです。

 

人間の行動心理から、平均というのはあたかも確定と思い込みがちです。「平均」と言われると良い方のブレは期待しますが、悪い方のブレは考えないようにしてしまいます。図で見るように、これにより長期では数百万円もの誤差が生じ、資金計画が狂ってしまいます。これでは将来のキャッシュフローは大きく変わってしまうでしょう。それを避けるためには期待リターンは2〜3%くらいは下方修正しなければなりません。あるいは無理してでもリスクを上げ、期待リターンを2~3%上げるということになるのでしょうか。

 

資産の組換えが必要なわけ

ここでリバランスという考えが出てきます。リバランスというのは平均リターンを将来にわたって維持していくために、時間の経過によって資産配分が崩れた時に、元の配分率に戻すことです。これにより平均リターンを維持しようというものです。その意味でリバランスは有効な1つの方法といえます。ただ、リバランスさえすれば平均リターンのままで目標額が達成できるという投資者の錯覚が起こりえます。そのことはアドバイザー側にも言えます。リバランスというのはあくまで元の配分率を維持していくというにすぎません。

 

もし各資産の収益率が時間の経過によって変わっていくならば、それにより構築するポートフォリオの平均リターンも変わり、資産配分も変えていかざるをえません。平均というのは、過去データからはじき出された現在時点までの平均値です。1年経てば平均は1年経過した分のデータが重なり平均リターンは変わり、その時点に設定した期待リターンのための資産配分も当然変わってきます。平均は常に動いているのです。

 

では、投資者はどうすればいいでしょうか? 例えばこれまで期待リターン5%のために作ったポートフォリオの資産配分が、

  日本株式50%

  米国株式50%

  

だとします。これは過去データから構築されたものです。しかし今までの経済成長率が将来はもっと下がる(上がる)と見込まれるとします。この状況下では、新たなリターンのための資産配分が必要になってきます。

 

そのためには配分率だけではなく、組み入れる資産も変わってきます。これまで日本株式と米国株式だけであったものが、これに債券や新興国株式、REIT(不動産投資信託)、金なども加わってくるでしょう。すると資産配分そのものも当然変わります。例えば、   

 日本株式30%

 米国株式30%

 その他の資産40% 

 

 という新たなポートフォリオを構築する必要が出てきます。これは資産配分を組み替えるわけですから、「リアロケーション」となります。リアロケーションは、投資資産はそのままにして配分率のみ大きく変更する場合もあります。また投資者本人の生活状況やリスク許容度の変化によっても組み替えることがあります。

 

平均リターンでいうところの「平均」は、現在から将来まで同じ形で継続していくわけではありません。新たに5%のリターンを目指すとすれば、将来変化していく市場に合わせて資産の選択と配分率を常に注視していかなければなりません。誤解のないように言うと、このことは頻繁に配分率や資産組換えをしてポートフォリオを見直すことと同義ではなく、常に注視しつつも、必要とあらばリバランスやリアロケーションを行うという意味です。

 

そうでないと過去の平均がずっと一人歩きして、「普通であっても5%のリターンが得られる」という思い込みによってシミュレーションされると本来の期待リターンから乖離し、将来に大幅な老後設計の修正を迫られるとも限りません。アドバイザーはもちろん、投資者もその意味を十分理解しておかなければなりません。

 

 <注>

「FPアセットアロケーション」によるシミュレーション。(提供:日本FP協会 運営会社:株式会社キャピタル・アセット・プランニング) 

 モンテカルロ法によるシミュレーション:通常の解析的な方法では予測が難しい数学的、物理的、社会的な問題に対して、乱数あるいは物理的な ランダム・ メカニズムを使って数値実験を多数回行うことにより、近似解を得たり問題の法則性を説明したりする手法をモンテカルロ法といい、この手法を 用いて計算を行うことをモンテカルロシミュレーションといいます。 (「FPアセットアロケーション」より)

 

 

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