経済物理学はどこまで発見されたか ~ ポートフォリオ理論が通用しなくなる日

 最近いろいろな本を読んで考えたことを、あくまで断章的に書いておこうと思う。


■伝統的経済学に代わるもの  

 これまで資格試験も含めてあれほど勉強してきた伝統的経済学や金融工学の内容が通用しなくなると、いったい何を勉強してきたのかと思う。行動経済学や経済物理学のことだ。 


 まず、行動経済学が伝統的経済学(標準的経済学)にとって代わるというのは大げさで、それは誤っているだろう。双方に長所と短所、限界があるので相互に補っていくべきものだと言われている。しかし、それにしてもファンドマネジャー、エコノミスト、経済評論家があれこれ理論武装していろいろ予測しているが、結局、モダン・ポートフォリオ理論では予測なんて当てにならないということだ。 


 そういってしまうと元も子もないし、かといってこうした理論なくして予測されたり、それにより運用されたりも困るものである。あくまで理論は理論として基本は押さえたうえでの運用は必要であるが、ことさら以上に過信するものでもないということになる。このことは、ポートフォリオ理論を学べば学ぶほど、感じることである。 


 今のポートフォリオ理論が当てにならないとなると(?)、つまるところ、運用については個々の株式やアクティブファンドなどよりも、インデックスファンドやETF(上場投資信託)だけで運用した方が気が楽だし、なにより余分な手数料を掛けなくても済む。

 

 経済物理学(エコノフィジックス)の理論が本質に最も近いのであれば、現在、運用会社での理論づけは、まったく意味がなくなることになるのではないだろうか。リスクとリターンの関係、すなわち、標準偏差と正規分布の考えは意味がなくなるとまでは言えないが、今の運用理論の根拠を失う。 


正規分布の幻

 リスクは正規分布に基づいて計算してきたのに、正規分布では説明できないことが起きている。たとえば、正規分布では、σ2(シグマ2)で全変位の95%が占められるのだが、為替レートではσ20くらいの大変動が1週間に1回くらいは起きているという(『経済物理学の発見』高安秀樹著)。


  もっとも、正規分布にしろ、ベキ分布にしろ、過去の統計値を取ったものだから、未来の数値を予測することなどできない。しかし、ベキ分布によって、より正確な分析が可能であるならば、株式市場などでの株価予測もより正確にできるようになり、金融リスクも把握しやすくなる。それによって、リスクを軽減して利益を得やすくなり、金融商品の売買もしやすくなるということだ。 


 トレンドの捉え方も変わってくる。サイコロの同じ目が5回続いた後、同じ目がこの後も続いて出る可能性は統計的にはあくまで1/6である。しかし、経済物理学では、5回以降も同じ目が続いて出る確率は過去のデータでは、かなり高くなっている。そしてこれが、トレンド(暴落・暴騰)につながる。 


 株式市場は、単に物理学的に説明できるものではなく、投資者心理が大きく反映している。株価の変動をもたらす要因を分析する方法としてはファンダメンタル分析とテクニカル分析がある。ファンダメンタル分析派からすると、テクニカル分析派は、邪道でまったく意味がないという。確かに長期的な分析となると、企業の財務分析や経営方針によって、株価が変動する要因となることが多い。

 

 しかし、行動経済学や経済物理学によれば、単に、サイコロの目が出る確率以上の変位が起こる。つまり、トレンドが発生するのだ。短期的な株価の動きを見ると、やはり、トレンドはある。テクニカル分析派は、そのトレンドを分析しているので、一概にその方法を否定することはできないが、その方法がすべてであるとは思えない。罫線(チャート)の分析は、結局は過去の動きに当てはめているだけで、そこには投資家の人間としての心理、経済物理学でいうところの群集心理の分析が見られない。 


■「ただ飯」は食えるか 

 伝統的経済学では、裁定取引は発生しない(フリーランチは存在しない)ことになっている。うまい偶然 に行き当たってタダ飯を食うことはできない。しかし、エコノフィジックスでは、わずかな時間の「スキ」に、「タダ飯」を食うことが可能であるという。しょせん、株式市場は、企業の財務・経営力でも、株価の過去のトレンドだけでは将来の動きなど把握できるものではないのだ。 


 エコノフィジックスによっても、その「スキ」を、ヘッジファンド中心に狙っている。一般の投資家がその「スキ」に乗じて、儲けを得ることは至難だろう。ただ、行動ファイナンスや、エコノフィジックスによって、リスクの研究がもっと進むことによって、一般投資家がもっと気軽に投資できるようになることはいいことである。 


 もっとも、その場合は大きなリターンを得るというよりは、長期的にそこそこの、かつての預金利子(5~6%)が稼げる程度になれば万々歳である。預金利率が1%以下という状況であるから、一般投資家はあまり知識もなく、運用利率を求め、したがってリスクを知ることもなく、リスクのある金融商品に手を出してしまう。市場が伸びている時はよいが、市場がいつまでも投資家のご機嫌をとってはくれない。どこにリスクが発現し、リスクに無知な人を陥れるかわからない。

 

 やはり、リターンに対するリスクの所在をよく知っておく必要がある。ファンドの評価にしても、シグマやシャープレシオは金融工学での正規分布を前提としている。その前提が大きく変わってしまったら、投資の方法も評価も、考え方も大きく変わっていくだろう。

 

2014.11.1

 

 

 


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