松井秀喜 ~ メジャー年金疑惑を嗤(わら)う

 10、10、2504、2643、507、1649。これらの数字が何を意味するか ―。

すべて当てた人は相当なメジャーリーグ通、というより大の松井秀喜ファンでしょう。そう、昨年12月28日(日本時間)、メジャーリーグを引退した松井選手に関する数字です。一つでも当てられた人も、彼のファンの一人でしょう。

 

正解は、日本で10年、メジャーで10年、日米通算で2504試合出場、2643安打、507本塁打、1649打点。松井選手は昨シーズンを浪人で迎えましたが、あくまで現役続行を希望、5月1日にはレイズとマイナー契約を結び、5月30日にメジャー昇格しました。しかし、極度の不振で8月2日に自由契約となり、次シーズン(今年)プレーする球団もなく、メジャーでのプレー続行を断念しました。

 

それはともかく、ネットのあちらこちらで、松井選手(すでに元選手ですが、選手と書きます)が現役続行に固執していたのは、メジャーでの年金満額受給が目当てだと書かれています。書いている方もどこまで本気か面白半分か知りませんが、年金受給の中身については事実です。が、松井選手にとって満額受給かどうかはまったく意味がありません。

 

まず、メジャーでの年金について書かれていることをまとめてみます。メジャーでは10年在籍すれば、満額の年金を受け取る資格を取得できます。その額は60歳から生涯受給で、17万5,000ドル(現在のレートで約1,528万円)。メジャー年金は1年を172日のメジャー選手登録で計算され、その日数に満たない場合は按分で減額されます。昨シーズンの松井選手はメジャーで2カ月しかプレーできませんでしたが、10年間メジャーに在籍したことで、ほぼ満額の年金を手にすることができるようになったというわけです。

 

確かにそうですが、それが松井選手が現役にこだわった理由にはなりません。最後の1年間、メジャーリーグでの在籍が足りなかったとしても日割りで減額支給されるだけで、さほど年金額に影響するわけではないからです。メジャーリーグでは、5年未満であれば支給はゼロ、マイナーリーガーにはこの年金は適用されず、全く支給されません。選手登録5年以上で年金受給の有資格者となり、10年の選手登録があれば満額となります。選手登録が5年ならば満額の半額、9年ならば90/100が支給されます。

 

仮に松井選手が在籍9年でメジャーリーグを引退したとしても17万5,000ドルの90%、15万7,500ドル(約1,375万円)が支給されます。満額との差額は年153万円。60歳から20年間では3,060万円と、それなりの金額になりますが、この程度の差額はヤンキース時代の年俸約13億円、メジャーリーグ通算年俸約83億円(1ドル100円にならして)を考えれば、ほとんど無視できるものです。したがって、彼が現役続行にこだわっていたのは、単純に野球を愛していたからであって、それゆえ野球を続けたかったということだったのです(そんなのわかりきっているじゃないか、年金満額が目当てだなんて記事を誰が本気で読んでたの? ・・・などと言わないでください)。

 

松井選手の疑惑(?)が解けたところで、翻って日本プロ野球の年金制度をみてみましょう。日本プロ野球では、10年以上の選手登録が受給資格条件となり、15年以上在籍で満額となる年金制度でした(「でした」というのは、この制度は昨年廃止になってしまったからです)。それまでは、10年選手で年間113万円強、15年以上で142万円(月11万円強)で55歳以降の支給です。日本の場合はメジャー(1軍)・マイナー(2軍)の差はありませんが、メジャーリーグでは球団側が掛金をすべて負担してくれるのに対して、日本では労使折半であり、仕組みも一般の国民年金制度と適格退職年金の併用に近いものとなっていました。ところが、平成24年3月に適格退職年金制度が廃止となり、それにつれて日本プロ野球の年金制度も廃止、その時点で10年以下の選手には一時金が支払われるのみでした。日本プロ野球では、年金財源を探り、新しい年金の枠組みが模索されています。

 

改めてメジャーリーグと比較すると、現役時代の年俸もさることながら、引退後の成功者への保障は格段の差があります。日本プロ野球のスター選手であったとしても、引退後はかなり寂しい金額です。それよりもっと重要な問題は、現役中の資産管理です。近年は、年俸数億円も珍しくはありませんが、引退後の人生何十年にならせば、その金額は決して余裕があるとは言えません。相当額の所得税が差し引かれるという知識さえなく浪費し、翌年納税のために借金をする選手、高額収入により豪邸を購入したものの高額ローンを抱え続けるなど、引退後に生活破綻しかねない選手もいるようです。

 

確かに、プロ野球選手と一般サラリーマンでは年間所得額のケタが違いますし、現役期間の長さも異なります。しかし、現役時代の資産管理や運用、引退(退職)後の生活設計などの構図は、野球選手もサラリーマンも根本は変わるものではありません。たとえサラリーマンで高収入があるとしても、貯蓄できないくらいの消費やローン返済があったりすると、将来の生活は暗澹となります。特に私たち一般国民の年金制度も、今後さらに厳しくなることが予想されています。現役時代の資産管理の重要さが改めて問われる時代といえます。

 

最後の問いです。松井秀喜選手が、本当に現役を引退した理由は何だったでしょうか。それは引退会見を見た人なら誰でもわかるでしょう。「野球を愛していたから」は当然でしょうが、正解は彼自身が会見で言っている通り、「命がけで野球をすることができなくなった」からにほかありません。

 (2013.01.12)

 

 

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